阿波踊りに“20万円の席”が登場 4年ぶり本格開催で見えてきたこと:「富裕層」を狙え! 観光最前線(2/3 ページ)
徳島県の阿波踊りが4年ぶりに本格開催された。地元新聞社などによるずさんな経営で多額の赤字を抱えていたが、今夏は初の取り組みとして20万円のプレミアム席を設けた。開催で分かったことなどを企画元への取材で振り返る。
累積赤字招いた地元新聞社などの“ガバガバ経営”
阿波踊りの歴史は400年ほどあるともいわれているが、高額なプレミアム席を提供したのは今回が初めて。販売に至った背景には、運営団体の深刻な経営難がある。阿波踊りは長年、地元紙の徳島新聞社と市の観光協会がメインで運営してきたが、その収支が公表されておらず、“ブラックボックス”の状態だった。
潮目が変わったのが、メディア報道だった。「週刊現代」が2017年6月、慢性的な赤字がかさみ、阿波踊りが開催の危機に瀕していると報道。記事では、観光協会幹部が内部資料を基に、徳島新聞社がチケット販売を主導していることや、同社幹部の天下り先企業が広告看板の制作の多くを随意契約で受注し、地元企業などから高額な制作費を徴収していることなど、組織運営の実態を告発した。
「週刊東洋経済」など他媒体も続報記事を出し、運営が市の補助金に依存している実態も明らかに。権力監視をすべき地元メディアが行政と“ズブズブ”の関係にあるだけでなく、むしろ独占的に収益を挙げていることが分かり、多方面から批判が集中した。
地元テレビ局「四国放送」(徳島新聞社が筆頭株主)でアナウンサーだった遠藤彰良前徳島市長も、阿波踊りの累積赤字を問題視。補助金による損失補填(ほてん)額を減額する方針を示したこともあり、市も本格的に調査を開始した。最終的に4億3600万円の累積赤字が分かった。徳島新聞の報道によると、19年に市観光協会は破産し、5300万円分の市の債権が回収不能になったという。
阿波踊りの主な収入はチケット代やスポンサー料、市の補助金などだが、支出超過が続いていた。市観光協会の破産について徳島新聞社は「道義的責任はある」が、累積赤字に対する「法的な弁済義務はない」との立場を示しているものの、外部有識者らは報告書で「収支均衡の責任放棄」「ガバナンスの機能不全」などを指摘。長期の赤字経営を批判している。
運営主体を巡る騒動もあり、19年からは赤字解消を目指し、市は民間委託による運営を導入。市長が内藤佐和子氏になってから事業体の変更はありつつも、民間委託が続いている。そうした状況の中で、観光庁が外国人向けの高付加価値体験への補助金事業を開始。体験型コンテンツのノウハウを持つ、アソビューが阿波踊りの実行委員会に提案する形で実現した。
なお、阿波踊りの開催が民間委託されるようになって以降、徳島新聞社は市の判断を批判する報道を繰り返しており、市が報道内容を否定・補足する声明を公式Webサイトで公表している。
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