日本のタクシーは本当に大丈夫なのか 海外との“差”が広がる:スピン経済の歩き方(2/5 ページ)
海外で「完全無人タクシー」の運行が始まっている中で、日本でどのような動きがあったのか。個人タクシーの年齢を80歳まで引き上げたり、外国人労働者の受け入れを拡大したり。日本の未来はどうなるかというと……。
ライドシェアに反対する理由
では、なぜ多くの人は反対しているのか。運行管理や車両整備の責任があやふやだし、安全面に課題があるし、犯罪に利用されたらどうするんだ、という風に危険性を指摘する声が上がっている。たくさんの国で導入されていても、「安全」を大事にする日本にはふさわしくないというのだ。
ただ、個人的には本当にそこまで「運行の安全」を求めるのであれば、なおさらライドシェアを導入すべきだと思う。
素人ドライバーが操る「白タク」が社会にあふれかえれば、プロドライバーが操る「タクシーの価値」があらためて社会に認められ「賃上げ」につながるからだ。
ご存じのように日本は30年間、平均給与が上がっていない。世界では当たり前の「国や自治体が物価上昇にともなって段階的に最低賃金を引き上げていく」ことをかたくなに否定して、「企業努力」という謎の精神論にすがってきたからだが、この方針が変わることはない。つまり、これからも日本企業は自力で賃上げをしていくことは難しい。
タクシー業界はそんな賃上げできない業界の代表だ。全国ハイヤータクシー連合会調べでは、22年のタクシードライバーの平均年収は363.6万円。これはもはや「企業努力」でどうにかなる水準ではない。
そこで「ライドシェア」という、「低価格帯のタクシーもどき」をつくることで、「タクシー」という産業全体の価値向上を試みるのだ。なぜそこまでして「賃上げ」にこだわるのかというと「運行の安全」を守るためだ。
週刊エコノミスト Onlineの『70代が主流 「タクシー運転手の高齢化問題」の危うさ』(22年11月5日)によれば、法人・個人のタクシー業界団体のデータを整理したところ、タクシードライバーが最も多い年齢は「70〜74歳」だという。つまり、国交省が号令をかけるまでもなく、あと数年もすれば、日本のタクシー運行は80代が中心になるのだ。年齢で運転を差別するつもりはないが、安全性という観点からもやはり「若返り」が必要だ。
若い人にタクシー会社で働いてもらうには、やはり「賃上げ」は欠かせない。「やりがい」とか「労働環境」とか「タクシー免許の取りやすさ」も無関係とは言わないが、やはり先立つものは「カネ」なので、まずは「平均年収363万円」を他業種並みに上げないことには、やりがいもへったくれもないのだ。
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