日本のタクシーは本当に大丈夫なのか 海外との“差”が広がる:スピン経済の歩き方(5/5 ページ)
海外で「完全無人タクシー」の運行が始まっている中で、日本でどのような動きがあったのか。個人タクシーの年齢を80歳まで引き上げたり、外国人労働者の受け入れを拡大したり。日本の未来はどうなるかというと……。
「ライドシェア解禁」の日
そういう棲(す)み分けができれば、国もタクシー会社の料金設定をもっとあげるべきだという判断になる。そのためにも、ライドシェアという「当て馬」が必要なのだ。
平均給与が30年上がらない「安いニッポン」では当然、公共交通機関のタクシー運賃もギリギリまで低く抑えられる。
もちろん、個人の実力がものを言う世界なので、年収500万円、800万円というドライバーもいる。しかし、そのようなドライバーも単価を上げているわけではないので、たまたま大都市や繁華街でたくさん客を乗せているとか、他のドライバーよりも長距離の客を乗せているに過ぎない。つまり、「単価が安いので過重労働をしないと稼げない」という公共交通機関としては致命的な問題がまん延しているのだ。
日本政府はこんな問題のある業界のメインプレイヤーを、80歳オーバーと外国人にしようとしている。心身に衰えがきている人と、慣れぬ異国の地で働き始めた人に、低賃金と過重労働を強いるのだから、事故を起こせと言っているようなものだ。
こういうヤバい未来を回避するには、米国や中国のような「完全無人タクシー」の普及を急ぐのがベストだが、「交通利権」というオトナの事情で日本はそれも難しい。そこで「じゃあせめてライドシェアを」というわけだが、自民党政権ではこちらも難しい。「票田」であるタクシー業界が反対しているからだ。
ただ、高齢者と外国人労働者に依存する今の戦略は間違いなく破綻する。池袋の暴走事故のような悲劇が何度か起きて、ようやく「やっぱりライドシェアも必要じゃない?」という議論が始まるだろう。
30年前から分かりきっていた人口減少を今になって大騒ぎをするように、ケツに火が付いてからじゃないと動かない、というのが日本のいつものパターンなのだ。
米国や中国では「完全無人タクシー」が当たり前になっているころには、さすがに日本でも「ライドシェア解禁」というニュースが流れているかもしれない。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。窪田順生のYouTube『地下メンタリーチャンネル』
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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