扶養を外れ、パート勤務を増やすなら要注意 「年収の壁」の落とし穴とは:社労士・井口克己の労務Q&A(1/2 ページ)
【Q】家族の扶養から外れ、パートの勤務時間を増やそうと思っています。気を付けるべきことはありますか?
連載:社労士・井口克己の労務Q&A
労働法に詳しい株式会社Works Human Intelligenceの社労士・井口克己氏が、労務関連の素朴な疑問を解決します。
Q: 先日、パート先の店長から、勤務時間を増やしてほしいと言われました。この提案を受けると給与は増える一方で、夫の扶養の対象から外れ、社会保険料がかかり手取りが減少する見通しです。
このため提案を断ろうとしましたが、店長から社会保険料相当分のボーナスを追加で支給する条件を提示されました。
子どもも大きくなって育児に時間がかかるわけではないため、手取りが減らないのであれば、問題ないと思っています。ただ、夫の健康保険組合から勤務先の健康保険組合に変わることで、損をすることがないか心配です。
意外な落とし穴
A: 勤務先の会社の健康保険組合が協会けんぽの場合は、病気の時の自己負担額が大幅に増えることがあります。一度扶養から外れると簡単には戻れないので、勤務先の会社の健康保険組合と配偶者の健康保険組合の保障内容を確認してから労働条件の変更を考えるといいでしょう。
「年収の壁」とその解決方法
労働時間を増やして一定の収入を超えると、社会保険への加入が必要となります。このとき、保険料が給料から天引きされ「労働時間や総収入は増えるが、手取りは減額になる」という逆転現象が起き得ます。これがいわゆる「年収の壁」です。
具体的には、本人が年収106万円以下の場合は、配偶者の健康保険組合に扶養者として加入が可能です。その場合は保険料は全て配偶者負担で、本人には保険料が発生しません。しかし、年収が106万円を超えると勤務先の健康保険に加入しなければならなくなります。社会保険に加入すると毎月、社会保険料が発生して、給与から天引きされます。給与が増えてもそれを超えて社会保険料の負担があると、仕事量は増えたのに、実質の手取りが減ったということが発生します。
このため多くの人が、年収の壁を超えないように働き控えをして労働力が不足する問題があります。
このような壁を撤廃すべく、厚生労働省は、勤務時間を増やすことで社会保険に加入し手取り額が減少する場合、その差額を補填する施策を実施企業に対して、従業員1人当たり最大で50万円の助成金を支払う方向で調整を進めています。
これによって、「年収の壁」がなくなり、多くのパート社員が配偶者などの扶養から外れ、健康保険に加入することが見込まれます。
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