学生同士の「いいね」で採用? 三井住友海上「DAO型採用」、その画期的な仕組み
学生同士や社員からの「いいね」が内定につながる──そんな新たな採用手法を、三井住友海上火災保険が取り入れる。社員と学生の「いいね」の重みには差を付けず、平等に評価し合うというが、果たして“ライバル関係”の学生同士で公正な評価につながるのだろうか。その仕組みとは?
学生同士や社員からの「いいね」が内定につながる──そんな新たな採用手法を、三井住友海上火災保険が取り入れる。
約1カ月にわたるインターンシップの期間中、コミュニケーションツール「Discord」のチャット機能の投稿に対し、同社社員や他の学生が付けた「いいね」のリアクション量を可視化。高評価を得た学生とは2024年6月以降にあらためて面談を行い、入社の意志を確認するという。
社員と学生の「いいね」の重みには差を付けず、平等に評価し合うというが、果たして“ライバル関係”の学生同士で公正な評価につながるのだろうか。その仕組みとは?
「いいね」で評価が決まる──どんな仕組みで成立させるのか
プロジェクトは、DAO(分散型自立組織)を用いた事業やWeb3事業を手掛けるガイアックス(東京都千代田区)と共同で実施する。DAOとは上司のような中央管理者を設けず、組織メンバーの投票などにより意思決定がなされる組織を指す。全ての活動や履歴がブロックチェーン上に保存され、可視化されるのが特徴だ。
「従来の組織はツリー状の構造で、決定事項が上から降りていき、組織の中心には管理者がいる。一方でDAOは中心にシステムとルールがあり、そこに人がくっついていく。
DAOには組織として実現したいビジョン、ユーザー(参加者)、ビジョンを実現するためのルール、参加者にとってのインセンティブの4つの要素が必要」(ガイアックス web3事業本部長 峯荒夢氏)
今回のインターンシップの参加学生は、同社社員と共同でこのビジョンにあたるものの策定から始める。1週目で「損害保険事業以外の新規ビジネスを開発するにあたり、採用するべき人材像」をテーマに議論。2週目以降は新たなビジネスモデル創出のためにチャットベースで議論を進め、1週目で定めた人材像を基準に「いいね」を送り合う。学生同士や社員から学生、学生から社員に付与し合った「いいね」はDAO支援ツール「Unyte」で集計する。
「従来の就活では、学生が『自分のどんな部分を評価されたのか』を把握するのは難しい。お互いに『いいね』のトークンを付与し合うだけでなく、そうした評価が見える化されるのが新しい点。誰がどれくらいのトークンを集めているのかはUnyteで確認できるため、学生の納得感が生まれやすいのではないか」(三井住友海上 島村太朗氏)
学生と社員の「いいね」の重み付けには差を設けない。学生同士は、いわば内定獲得を目指すライバル関係にある。利益が相反し、適切な評価がなされない懸念はないのだろうか。
「学生の『いいね』がたくさん集まったとしても、最終的には社員の『いいね』が重く、結果が覆ってしまうのはDAOのシステムと合わないため同一にした。学生が『いいね』を与えなかったり、反対に特定の人にばかり与えすぎたりするリスクは確かに考えられるが、そうした意図のある行動は採用側も把握できる。学生もそこは配慮するだろうと考えている」(島村氏)
インターンシップの受け入れは、新規事業を担うビジネスデザイン部で行う。同部への配属が決まっている採用コース(スペシフィック採用コース)がすでに存在することや、ITリテラシーの高い社員が多く受け入れ態勢を作りやすいなどの理由があるが、ゆくゆくは全総合職採用にもこの手法を広げていくつもりだという。
採用により現場の目線が反映されることで、ミスマッチを減らす目的もある。実際にミスマッチが減ったのかは中長期的に検証する予定だ。今後はより現場視点を取り入れた採用の形を模索していくとしている。
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