「優秀でも残念でもない、普通社員」の異動に、人事が関心を持たない──何が起きるのか:タレントマネジメントの落とし穴(1/3 ページ)
社員の異動を考える際、人事部が真っ先に関心を持つのは「優秀社員」と「残念社員」。その間にいる大多数の「普通社員」は後回しにされがちという実態がある。しかし、この層への取り組みを疎かにすると、ある懸念が生まれる。
前回の記事では、後回しにされがちな「その他大勢」の非管理職層を適材適所に配置するために、人事部門が知っておくべきことを解説しました。
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タレントマネジメントの大目的は適所適材・適材適所の実現です。では、この適所適材・適材適所を具体的には誰が検討しているのでしょうか?
人事異動を取り仕切るのは、実は人事部ではない
人事部が社員一人一人に細かく目配りしながら人事異動案の検討を行っている(はずだ!)とお考えの方が多いかもしれません。なんといっても「人事部」ですから、そのようなイメージがあるのは当然です。しかし、どうやら実態はそうでもないようです。
下図の「人事異動案の作成主体」は、非管理職層の社員の「誰をどこに異動させるか」という具体的な人事異動案を、誰が作成しているかを示すものです。大手企業の人事責任者を対象とした調査結果をもとにしています(※1)。人事部が非管理職層の社員の人事異動案を作る企業は全体では約3割。製造業では2割に過ぎません。
人事部は管理職層の異動と事業部門間異動を担当し、非管理職層の異動は各部門に任せる企業が多いのです。とくに製造業ではこの傾向が顕著で、大抵の人事部は人事異動案を作らないといってもよいくらいです。これは多くの異質な事業や職種を抱える中で、それぞれのニーズに即した異動配置を行おうとすると部門主導にならざるを得ないという状況を反映しています。
(※1)2021年6月3日〜8月19日、大手企業31社の人事責任者・人事企画責任者を対象にヒアリング形式で実施。本調査の詳細は、22年4月に公表予定。なお、人事部が規定上の人事権を持っていても原則として部門案をそのまま承認する運用の場合、「各部門」としてカウントしている。
“部門人事のための組織”を置く企業は少ない
人事部が人事異動案を作らないという企業では、誰が作っているのでしょうか。各事業部などで人事異動案を作成する企業のうち、事業部内に人事の専門組織を設置している企業は4分の1です。4分の3の企業では企画室や管理部といった組織が人事異動業務も担当している場合が多く、大手企業であってもなかなか部門人事の専門組織にまで人員を割けないというのが実態です。
また、多くの場合、各事業部の企画室や管理部自体が主体的に人事異動案を作成するというよりは、事業部内各部門の管理職が起案したものを「取りまとめ、調整する」という機能です。
なかには事業部門の人事に関する参謀役としてHRBP(HRビジネスパートナー)を置く企業もでてきました。HRBPを設置している会社は2割ほどです。HRBPの位置付けや役割はまだ定まっておらず、事業部門に所属する場合もあればコーポレート部門に在籍している場合もあります。
多くの場合は管理職や高度専門人材、組織編制などに優先順位を置いて事業部門を支援しており、HRBPも非管理職層の個別の人事異動案を作成しているということではなさそうです。結局のところ、人事部が人事異動案を作らない場合は各部門の管理職がそれぞれ人事異動を起案している企業が多いということです。
各部門で人事異動を起案する場合、ハイパフォーマーとローパフォーマーには注目が集まります。図表は人事評価と人事異動の関係を整理したものです。横軸は短期視点・中長期視点としていますが、短期視点を事業部門に人事権がある企業、中長期視点を人事部門に人事権がある企業と読み替えて構いません。多くの場合、事業部門は直近の生産性を重視して配置を行い、人事部門は社員のキャリア形成を事業部門よりは強めに意識して配置を行う傾向があります。
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