「優秀でも残念でもない、普通社員」の異動に、人事が関心を持たない──何が起きるのか:タレントマネジメントの落とし穴(2/3 ページ)
社員の異動を考える際、人事部が真っ先に関心を持つのは「優秀社員」と「残念社員」。その間にいる大多数の「普通社員」は後回しにされがちという実態がある。しかし、この層への取り組みを疎かにすると、ある懸念が生まれる。
“S評価の優秀社員”と“D評価の残念社員”は、人事部にも見えている
ハイパフォーマーは、現所属部門からするとエース人材なのでこのままわが部門で頑張ってほしい抱え込み対象です。一方、人事部からすると、パフォーマンスもポテンシャルも高い人材は将来に向けて短期サイクルでさまざまな仕事を経験させたい、現所属にとらわれずに全社最適配置をしたいと考えています。
このような優秀人材は配置を巡って事業部門と人事部との綱引きになるわけですが、大手企業では次世代経営人材発掘・育成の取り組みが進んでおり、優秀人材の全社最適配置は人事課題というにとどまらず経営課題としての優先度も高くなっています。
パーソル総合研究所が実施した「大手企業のタレントマネジメントに関する実態調査2020」では4分の3の企業が次世代経営人材・次々世代経営人材の人材プールを編成し、全社最適配置の対象としている状況が明らかになっています。
企業によって事業部門と人事部の力関係に濃淡はあっても、ハイパフォーマーの配置については人事部が一定の役割を果たしているといえそうです。一方のローパフォーマーも人事部の目配り対象になっています。
事業部門主導の企業でも、現在の職務や職場で活躍できていない人材の新たなマッチング先探しは人事部に要望が自然と集まってきます。実際には多くの企業で「この仕事を行うためにこういう人材が欲しい」など、事業推進に直結するポジティブな異動は事業部間で直接調整し、成績不振やハラスメントがらみなどのネガティブな異動には人事部が関与する傾向もあるようですが、人事部もハイパフォーマーとローパフォーマーは把握できているといえそうです。
目配りされない大多数の「普通社員=ミドルパフォーマー」問題
そこで問題になるのがミドルパフォーマーです。ミドルパフォーマーには二つの特徴があります。一つは人数が多いこと。ミドルパフォーマーは社員の大多数を占め、企業によっては数千人、数万人規模になります。もう一つはその部門の戦力として有効に機能している人だということです。
S・A・B・C・Dの5段階評価ならBの人ということですが、たいていの評価制度ではBは業務目標をほぼ達成しており、資格等級やグレードに要求されるコンピテンシーなどをおおむね備えている人ということになります。新卒入社から10年間くらいまでは育成的ローテーションの仕組みがあっても、それを過ぎて30代半ば以降になると、まさにわが部門の基幹戦力といった位置付けになり、事業部門からするとなにか特殊事情がない限り「異動させる理由がない人」になります。
事業部門に人事権がある場合は、若手はともかく一人前になったミドルパフォーマーは人事異動対象と見なされず、長期間同じ部門に在籍し続けるパターンが多くなるわけです。
人事部門にもミドルパフォーマーに関する課題意識はあるはずですが、現状は問題なく機能しているミドルパフォーマーよりもハイパフォーマーとローパフォーマーへの対応の優先順位が高いため、ミドルパフォーマーはどうしても後回しになる、手が回りにくいというのが実態だといえます。
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