「優秀でも残念でもない、普通社員」の異動に、人事が関心を持たない──何が起きるのか:タレントマネジメントの落とし穴(3/3 ページ)
社員の異動を考える際、人事部が真っ先に関心を持つのは「優秀社員」と「残念社員」。その間にいる大多数の「普通社員」は後回しにされがちという実態がある。しかし、この層への取り組みを疎かにすると、ある懸念が生まれる。
とくに後回しにされがちな事務系ミドルパフォーマー
なかでも、事務系のミドルパフォーマーには注意が必要です。技術系の社員は専門性が比較的はっきりしており、全社的なリソース管理の必要上、開発本部・技術本部などの職種別の組織が全社横断的に担当職種の社員を目配りしている場合も珍しくありません。
一方、事務系の社員については、財務、法務などの職種を除くと職種別に全社横串でリソース管理をしている企業はあまり見られず、事業部門に人事権がある場合、人事部は事業部が作成した異動案を確認することはあっても、異動案に入っていない人材の異動を検討することはほとんどなく、誰を異動候補とするかは部門任せになりがちになります。事務系には人事部以外に目配りする人がいないといってよいかもしれません。
ミドルパフォーマーへの取り組みを疎かにすると……
「ミドルパフォーマーとして機能しているのなら、そこが適材適所で、別に異動を検討する必要はないじゃないか」と思われるかもしれません。下図の調査結果を見ていただくと、同じ部門に5年以上在籍すると成長志向、学習意欲、キャリア自律への関心が下がってくることが分かります。
(※2)2021年6月3日〜8月19日、大手企業31社の人事責任者・人事企画責任者を対象にヒアリング形式で実施。本調査の詳細は22年4月に公表予定
ミドルパフォーマーは現時点では今の部署で今の仕事を続けることに問題がないかもしれませんが、先々のキャリアを考えた場合「そのままで長いビジネス人生を生き抜く専門性が身に付くのか?」と考える必要があります。
同じ仕事を続けてきた30代のミドルパフォーマーが40代半ばになり、実質的に管理職登用チャンスがなくなったときに同時に自らの専門性の乏しさにも気付く──というパターンは避けるべきです。
社員本人が自ら専門性を身に付けキャリア自律すべきという考え方もありますが、現実には自律できない人も少なからずいます。自律しようと思っても、社内公募などの受け皿が十分でない企業も少なくありません。
わが国の雇用法制下では、まだまだ長期にわたる雇用責任が付きまといます。キャリア自律の名のもとに全てを社員任せにするわけにはいきません。短期の生産性を重視しがちな事業部門に任せっぱなしにすることもできません。
優先順位的に後回しになりがちですが、ミドルパフォーマーの適所適材・適材適所の中長期的な実現は人数が多いだけに経営に大きなインパクトを与えます。人事部には中長期観点での取り組みが求められています。
著者プロフィール
藤井薫
パーソル総合研究所 上席主任研究員
電機メーカーにて人事・経営企画スタッフ、金融系総合研究所にて人事コンサルティング、タレントマネジメントシステム開発ベンダーにて事業統括を担当。2017年8月パーソル総合研究所に入社し、タレントマネジメント事業本部を経て2020年4月より現職。
株式会社パーソル総合研究所
パーソル総合研究所は、パーソルグループのシンクタンク・コンサルティングファームとして、調査・研究、組織人事コンサルティング、タレントマネジメントシステム提供、人材開発・教育支援などを行う。経営・人事の課題解決に資するよう、データに基づいた実証的な提言・ソリューションを提供し、人と組織の成長をサポートしている。http://rc.persol-group.co.jp/
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