ドコモが「パケ詰まり」対策に300億円投資 それでも「後追いの印象」が拭えない理由:房野麻子の「モバイルチェック」(2/2 ページ)
今年に入って、NTTドコモのネットワーク品質に対する不満が高まっている。ドコモは300億円を投資し、品質改善に取り組む。しかし筆者は、どうしても「後追い」の印象があるという。
対策が必要な場所を素早く見つけるために、SNSの情報を分析し「鉄道動線の対策の重要性を認識した」と小林氏は説明していたが、鉄道動線の重要性はKDDIが5Gサービス開始時からアピールしてきたことだ。2021年9月にはJR東日本の山手線とJR西日本の大阪環状線の駅間、首都圏の主要駅で5Gネットワークの構築を完了している。
また、ドコモがLLM付加価値基盤を活用してSNS情報を分析する、としているのに対し、ソフトバンクはネットワークのデータに加え、ユーザーのスマホから送られる品質データ(アプリを使って収集していると思われる)を補完的に使い、具体的な対策場所を特定しているという。ユーザーのプライバシーにも関わることなので、安易にデータを使うことは許されないが、ユーザーの体感をいち早く把握する上で効果があるようだ。
一方で、基地局の新設・増設に関してはドコモにとって不利な面もあると感じる。ソフトバンクは、ウィルコム、イー・アクセスを買収したことで、スモールセルの基地局設置場所を数多く持っている。KDDIもグループ会社のUQコミュニケーションズが展開しているWiMAX 2+を利用している。
ドコモは今月の説明会で、地権者やビルオーナーとの折衝があるので、基地局の新設・増設には「長ければ1年かかる」(小林氏)と強調していた。基地局設置をそれほど難しく語っていなかったソフトバンクと非常に対照的だった。
ユーザーが離れる前に、早急な対策が必要
記者からの質問では、他社が4G用の周波数を転用して5Gエリアを作る「なんちゃって5G」を進めてきたのに対し、ドコモは5G用の高い周波数(3.7GHz帯、4.5GHz帯、28GHz帯)を使った「瞬速5G」をピンポイント的に配置したため、セルエッジができやすくなり、品質低下を生んでしまったのではないか、という指摘があった。
小林氏は「サブ6GHz帯の周波数を使った5Gエリアを面的に充実させて支えていなのは事実」と認めたが、4Gと5G間のハンドオーバーやセルエッジでの切り替えをスムーズにすることは「やりようがある」と回答している。
ドコモはこれまでも世代の変わり目で通信品質の悪化を指摘されたことはあったが、それでも国内最高のネットワークという評価を得てきた。その底力を今こそ見せてほしい。説明会後の囲み取材では、ユーザーの転出や純増の鈍化は起こっていないと話していたが、携帯電話業界の話題に敏感な人が多い筆者の周りでは、ドコモから他キャリアに移る人もちらほら目にする。それは都市部で活動している人に限らない。一般ユーザーにそのムードが広がる前に、ドコモ自らも認識しているように早急な対策が必要だろう。
筆者プロフィール:房野麻子
大学卒業後、新卒で某百貨店に就職。その後、出版社に転職。男性向けモノ情報誌、携帯電話雑誌の編集に携わった後、2002年にフリーランスライターとして独立。モバイル業界を中心に取材し、『ITmedia Mobile』などのWeb媒体や雑誌で執筆活動を行っている。最近は『ITmedia ビジネスオンライン』で人事・総務系ジャンルにもチャレンジしている。
関連記事
- 意味不明? ドコモ「irumo」の狙いは何なのか
ドコモが発表した新プラン「irumo」と「eximo」。ブランド名だけを聞けば、サブブランドを想起するが、その実態はドコモ本体のブランド名というから驚きだ。一見すると位置づけが意味不明にも思えるが、その狙いは何なのか。 - どうなる? 500万回線突破「楽天モバイル」 明るい話題と不安要素
自社回線(MNO)の契約数が500万を突破した楽天モバイル。直近決算では赤字幅が縮小、OpenAIとの協業を発表するなど明るい話題も出た。一方、不安要素も残っている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.