“サウナブーム”終焉か? 「タピオカブーム衰退」とのある共通点:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(1/2 ページ)
ブームの渦中にあったサウナ市場も、今やその過熱ぶりが冷めつつあるかもしれない。その背景には、消費者の健康観念の変化、経済情勢の影響、そしてブームによる競争の激化が挙げられる。
ブームの渦中にあったサウナ市場も、今やその過熱ぶりが冷めつつあるかもしれない。消費者の注目はピークアウトの兆しが見えだしたが、サウナ施設の出店は、大都市圏を中心にハイペースで続く。
そうなると懸念されるのが、事業者同士の競争の激化だ。ブームの過渡期を乗り切る策はあるのだろうか。そのヒントはかつての「タピオカブーム」が残した苦い教訓にある。
たった1年で「2000店舗増」 出店ラッシュは廃業ラッシュに転じるか
国内のサウナ店舗情報を取りまとめるWebサイトの「サウナイキタイ」には、現在1万2276店舗ものサウナ施設が登録されている。ちなみに三菱UFJ銀行の支店数でも全国で約2500店舗ほどしかない。国内のサウナ施設は国内最大手メガバンク5つ分の支店数と同じくらいの規模があるということになる。
サウナイキタイのデータベースの伸びを確認していくと、2022年の上半期に1万店舗を突破し、そこから1年3カ月で2000店舗以上が追加されていることが分かる。全ての新規登録件数が新規創業のサウナというわけではないものの、都内を中心に毎週のごとく新たなサウナ関連施設の開業情報が確認できる。概してサウナ新規出店の勢いは増しているといってよいだろう。
しかし、サウナという施設は、昨今の物価高・エネルギー高の影響を真正面から受ける業態だ。人件費の高騰や円安によるサウナ機材・木材の仕入れコストも跳ね上がっており、相当に厳しいコスト環境にさらされている。
さらに、消費者の関心がピークアウトしている兆候もインターネットの検索ボリュームから確認できる。Google検索の統計サービスであるGoogleTrendsによれば、検索キーワード「サウナ」の関心は20〜22年にかけて大きく増加したものの、そこからの約2年間については伸び率が鈍化し、横ばいの状況が続いている。
検索ボリュームの水準としては過去最高の水準を維持してはいるものの、目立った関心の成長率がみられていない。それにもかかわらず、新規サウナ事業者がこのタイミングで数多く出店されていることを踏まえると、今後はサウナ事業者同士での熾烈なパイ争いの局面に陥る可能性がある。
また、健康効果に対するリスクが指摘されるようになってきたのも、サウナデビューを踏みとどまらせる要因となりそうだ。かつて「健康」と「美」を追求する人々に支持され、社会現象にまでなったサウナだが、長時間の利用に伴う体への悪影響や、サウナから水風呂という相当の温度差がある環境下でのヒートショック現象リスクなど、健康リスクに対して複数の医師がSNS上で疑問を呈したことも大きな議論を呼んだ。
コスト高を価格転嫁
現在、サウナ専門店の料金は比較的高額で、一部の消費者にとっては「贅沢品」と見なされることがある。筆者が自社オフィスを構える池袋には「かるまる」や「タイムズスパレスタ」といったサウナ愛好家に親しまれている施設が複数存在する。そのようなサウナ専門施設では、ここ数年で値上げやプランの改定をへて、1回の利用で通常3000円ほどの料金がかかるケースも珍しくない。
現在のような経済の先行きが不透明な状況下では、消費者の行動はより慎重になる。このような行動は、サウナをはじめとするレジャーや娯楽関連の産業にとって、利用客の減少という形で間接的な影響をもたらす可能性があるだろう。
従って、サウナ経営者や関連事業者は、このような市場の変動に対応するための戦略を練り、今後予見される競争の激化とコストの上昇に対処する必要が出てくる。
エネルギーコストの上昇は、サウナ業界にとって脅威だ。サウナの運営は、蒸気を発生させるために大量のエネルギーを消費する。このコストを顧客価格に転嫁しなければならない状況もまた、顧客離れを招くリスクとなる。
これまでのサウナ関連施設では水風呂や温泉といった浴槽もあわせて提供する方式がメインだった。しかし近年では「サウナラボ神田」のように浴槽がなく、水風呂も業務用冷蔵庫のような部屋に置き換えることでお湯を沸かすためのエネルギーを節約したり、水の消費量を減らしたりするような事業者も現れている。
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