“実写にしか見えない”伊藤園「AIタレント」の衝撃 なぜ注目されたのか:廣瀬涼「エンタメビジネス研究所」(2/3 ページ)
伊藤園が公開した、新商品「お〜いお茶 カテキン緑茶」のCMが話題だ。登場する女性が、AIで生成されたキャラクターだったからだ。人々はなぜAIタレント(架空の人間)にそこまで注目するのだろうか。
しかし、蓋を開けてみれば、主力メンバー6人の顔のパーツを合成したCGアイドルだった。登場当時は彼女が実在すると思っていた人も多かった。その後のネタばらしで、彼女がCGだったと明かされた後の方がCMに注目が集まった。
人々はなぜAIタレント(架空の人間)にそこまで注目するのだろうか。筆者は「不気味の谷現象」による微妙な違和感が影響していると考える。
不気味の谷現象とは、CGやロボットなどが人間の容姿に近づけば近づくほど親近感が増していく一方で、ある一定の度合いに到達すると突然、強い嫌悪感を生み、さらに人間と見分けが全くつかなくなると、親近感が上がるという現象である。
この理由として九州大学の研究グループは、未知への不安を抱きやすい人ほど、分類困難な対象を不気味と感じやすいことを明らかにしている。未知のものを回避しようとする心理が不気味の谷現象を生み出しているといえるだろう 。
筆者のように、伊藤園のCMに出ているAIタレントを本物だと思った鈍感な(純粋な)消費者がいる一方、何かしらの違和感を覚えた消費者がいたのも確かだ。AIが生成する人間のクオリティーが上がっていく一方、AIの描くイラスト(イメージ)にも限界があり、現実世界の人間や背景と限りなく近いものであっても、微妙な違和感や嫌悪感が生まれるのかもしれない。
AIが従来よりもリアルな人間や風景を描写できるようになったが、描写されるイメージは学習データによって成立しており、データのキャパシティーを超える注文をしてしまうと、予想していたイメージとは全く異なるものがアウトプットされることもある。
ネットではこの方法を逆手にとって、あえて難しい注文をAIにして、ナンセンスなイメージが生成されるのを楽しんでいる人もいる。この「リアルっぽいのに何かがおかしい」イメージが話題となり、知名度が急上昇したのが恋愛マッチングアプリ「オタ恋」だ。オタ恋は生成AIで作成した、オタクっぽいカップルの画像が話題となっている。広告開始当初は、ぱっと見、本物の人間に見えるがよくよく見ると街並みや看板に違和感があり、AIが生成した画像だと分かるレベル感だった。
しかし広告が話題になり、日々新しいイメージ画像が投稿されていく中で、リアルさよりも、AIが生み出すナンセンスさに注目が集まるようになった。今では作り手側も、いかにSNSユーザーにツッコんでもらえるか、ということに熱心に取り組んでいるようだ。この広告の効果について、運営会社のエイチエムシステムズは「男性は1.5〜2倍程度、女性は3〜7倍程度、入会者が増加した」と明かしている。AI広告素材がバズることで認知度が上がった可能性があるようだ。
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