コロナ禍が落ち着きつつある今、在宅勤務と出社を組み合わせた「ハイブリッドワーク」を採用する企業が増えている。食品メーカー大手の味の素はコロナ禍前からハイブリッドワークを含む多様な働き方を推進してきた企業の一つだ。
新しい働き方における「一日の長」がある味の素。同社の人事部に、ハイブリッドワーク導入後の効果や課題、そしてどのように乗り越えて来たのかを聞いた。
コロナ前からハイブリッドワークを推進
味の素が働き方改革に取り組みはじめたのは2008年、西井孝明前社長の代にさかのぼる。「味の素グループWLB(ワークライフバランス)ビジョン」を策定し、全社的に多様な働き方を推進してきた。
14年度にはすでに在宅勤務制度を導入しており、17年度にはサテライトオフィスと提携した「どこでもオフィス」を導入。ペーパーレス化や社内会議時間の見直しなども進め、所定労働時間を20分短縮することに成功している。こうした取り組みが評価され、日本テレワーク協会の「第18回テレワーク推進賞」(18年)で会長賞を受賞した。
ハイブリッドワークの環境整備に取り組んできたことで、コロナ禍という未曽有の事態に直面しても、社内の働き方に大きな混乱は起きなかったという。
現在の味の素の出社率は、どうしても現場に行く必要がある工場部門などを除くと、おおむね50%程度を推移している。社員のライフスタイルや都合に合わせて、出社と在宅をフレキシブルに切り替えられる環境が定着している。
コミュニケーション上の課題を乗り越えた「地道な」工夫
リモートワークが浸透したことで、コミュニケーション上の課題も生まれた。人事部の福永貴昭氏はこう振り返る。
「リアルの場では即座に相談やフィードバックできていたことが、リモート環境だとやりにくい。対面で会う機会が減ることは、新入社員のモチベーションにも影響を及ぼす。成長意欲が高い同期を見て触発され……という経験も減ってしまうからだ」(福永氏)
味の素はコロナ禍に入っても新卒採用のペースを緩めていない。20年度は47人、21年度は59人、22年度は90人の新卒を採用している。こういった新人に対してどのように教育、サポートしていくかも重要なテーマだった。
そこで、同社はいくつかの工夫をした。リモート環境で気軽に相談しにくい問題については、上司が週次で固定の「何でも相談できる時間」をつくり、メンバーにとって相談しやすい時間を確保した。
加えて、まだ社員の顔と名前を覚えきれていない新入社員のために社員専用のポータルサイトをリニューアルし、それぞれの部門ごとの社員を写真付きで紹介するページを作成した。
オフライン上の工夫も行った。出社時に「誰がどこに座っているか分からない」問題に対して、社員が座る椅子の背中に名前と部署名、顔写真を貼り付けるといった工夫だ。国内屈指の大企業にしてはアナログな施策に思えるが、これも確かな効果がありそうだ。
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