ヤクルト購入率が爆上がり 陳列棚をDX「シェルフサイネージ」の威力とは?:がっかりしないDX 小売業の新時代(2/4 ページ)
陳列棚の前面につけるコンパクトなデジタルサイネージ「シェルフサイネージ」。実は使い方次第で失敗にもつながる。シェルフサイネージの効果的な使い方とは?
アプリを使った購買と棚サイネージ連動の流れ
使い方の流れを簡単に紹介します。買い物予定の商品を会員アプリで探し、買い物リストに登録。次に、店舗でScan&Goアプリを起動し、会員アプリの買い物リストを取り込む。
リストの上から順番にどの通路のどの棚に商品があるか表示されるので、売り場まで移動する。売り場付近(概ね数メートルの範囲)まで行くと、EDGEが固有のアイコン表示に変わる。
見つけた商品を取って、スキャンする。買い物リストの商品を全てスキャンしたら、セルフレジコーナーで支払う。アプリ登録したクレジットカードもしくはデビットカードで支払いを完了し、完了画面をセルフレジコーナーのスタッフに見せる――。
上の写真はマーク(バナナ)を見えやすく写したものなので、視認性が高いのは当然です。一方で、実際体験した感覚を率直に書くと、下の2枚のように商品名、売価などの通常情報とマークが点滅で表示されるため、意外と見落としやすく、さらに、買い物リストを登録していない客の買い物には不便です。
ベンダーや開発部門が見落としがちなポイント
結論からいうと、この試みは失敗に終わり、数年後にはなくなっていました。同じ時期にScan&Goアプリ(Scan,Bag,Go)と来店客への貸出用のScan&Go端末もなくなりました。Krogerから公式発表はなかったものの、Scan&Goで万引きが増加したことも関係があるのかもしれません。
EDGEは商品場所案内のような機能はないコンパクトな棚デジタルサイネージとして、日本のスーパーでも代理店経由で数店舗PoCが行われました。PoCを実施中の店舗には数回行きましたが、紙の代替えに過ぎない表現であり、翌年には見なくなりました。
Kroger独自の商品の場所を表示する機能だけでなく、EDGE自体がなくなったのは、現場オペレーションの問題が考えられます。下の画像はEDGEを見た時に「やっぱりこうなるんだ」という感想を持った写真です。電子棚札の上に、特価品の紙POPを貼っています。開始1カ月でこうなっていたわけですから、その後の状態が推測できます。同様のケースは、日本の電子棚札導入店でもよく見る光景です。
店舗で売り上げの責任を持つ従業員は特価で安くなった商品を目立たせて、売り上げを1ドルでも多く稼ごうと思っています。カラーが使えるEDGEであっても、より大きな紙のPOPを貼ろうとします。
これが現場では必ず発生します。システム設計をしているベンダーや開発部門が見落としているのはこういうことなのです。現場で何が起こるかは、顧客の目線で体験しないと分からないのです。デジタル改革には、運用の改革も不可欠なのです。
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