ヤクルト購入率が爆上がり 陳列棚をDX「シェルフサイネージ」の威力とは?:がっかりしないDX 小売業の新時代(4/4 ページ)
陳列棚の前面につけるコンパクトなデジタルサイネージ「シェルフサイネージ」。実は使い方次第で失敗にもつながる。シェルフサイネージの効果的な使い方とは?
シェルフサイネージで購入率が伸びたヤクルトの事例
筆者は小売業のDX支援をする傍ら、IT企業が持つ技術を小売・流通に活用するアドバイザーもしています。
契約先企業の一社に「人に寄りそう合理化で、世界をもっと自由に、もっとゆたかに。」をミッションとするゴウリカマーケティング(旧コニカミノルタマーケティングサービス)があります。EDGEやLe Pickの視察もこの会社の方々と一緒に視察・研究しました。
同社のAIを活用した顧客行動分析サービス「Go Insight」を活用して、ヤクルト本社が成果を上げた事例があります。
ヤクルト本社では以前は、来店客の視線を追跡するアイトラッキング分析とPOS分析を中心に、売り場の最適化を提案していました。この分析により、商品の配置や色の使用に関する具体的な提案が可能でした。
このような分析を通じて実績は上がりましたが、解明できなかった点もありました。例えば「(冷蔵オープンケースの)ゴールデンゾーンは最下段と言われているが、実際に最下段と下から2段目の接触回数にどの程度の差があるのか」といった疑問です。このような疑問を解決するためにGo Insightで調査を実施しました。
調査では、立ち寄った人数、滞在時間、手に取った商品数などを分析。これにより、特定の商品の配置変更が売り上げ向上につながることが明らかになりました。仮説に基づいた配置変更により、ヤクルト商品の売り上げが114%、乳酸菌カテゴリー全体は116%に向上しました。
その後、シェルフサイネージなどの資材を利用した効果検証も行いました。資材設置の前提として「最近の顧客は乳酸菌飲料を選ぶ際、乳酸菌が含まれているだけでなく、確かな効果や効能を求めている」という調査結果がありました。
サイネージ設置後、ヤクルト商品購入者の平均滞在時間が約4秒伸びました。これはシェルフサイネージによる視認性の向上と関心・興味の引き付けによるものと考えられます。また「ヤクルト ジョア」や「プレティオ」などが機能的な商品として認識されたことで、購入率が大幅に伸びました。
このケースにおいては「最近の顧客は乳酸菌飲料に機能を求めている」という調査結果に基づいた仮説があったことが重要と考えます。機能を訴求するワンポイントメッセージを短時間で切り替えることで目をひいて、売り場の滞在時間を増やすと共に購買に結びつけたのです。
たった3.8秒と思う人もいるかもしれませんが、乳酸菌飲料売り場の滞在時間は(店舗と状況にもよりますが)15秒程度なので、2割以上増えています。この増加分はシェルフサイネージで効果的なコンテンツを見せることができた影響です。
関連記事
- 日本のリテールメディアが攻めあぐねる、3つの理由
近年、日本でも小売業者やメーカーが注目する「リテールメディア」。成功する米小売り大手のモデルを模倣するだけでは、成功は難しいと筆者は指摘する。なぜ模倣だけではリテールメディアは成功しないのか――。 - 巨大な店舗で「ダラダラ仕事」 それでも米国小売業が成長できるワケ
なぜ、巨大な店で従業員がダラダラ働いている米国の大手小売業が、キビキビ働いている日本の小売業より生産性が高く成長し続けているのか――長年、小売業のDX支援を手掛けてきた郡司昇氏が解説する。 - 日本は周回遅れ? ウォルマートを成長させた「データ整備」と「物流改善」の極意
小売業のDXを図る上で在庫管理におけるデータの活用は欠かせない。ウォルマートの事例から、日本の小売業の成長に必要な要素を浮き彫りにする。 - パン店の試食客が2倍に ユニークな「仕掛け」が小売DXに必要なワケ
人々の好奇心をくすぐる工夫で行動変容を促す「仕掛け」を小売業と組み合わせると、どんな化学反応が起きるのだろうか――。仕掛学の第一人者、松村真宏・大阪大大学院教授と小売業のDXに詳しい郡司昇氏が対談した。 - 店舗と客の接点増には「ムダや遊び」が不可欠 仕掛けで変わる体験価値
好奇心をくすぐる工夫で、人々の行動変容を促す「仕掛け」。仕掛けと小売を掛け合わせたら、どんなシナジーが生まれるのか――。後編では、小売業における仕掛けの活用シーンや、DXにエモーションが欠かせない理由について紹介する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.