「2024年問題」だけじゃない! 小売業界が直面するいくつもの重要課題:前編(3/4 ページ)
小売にもテクノロジーの浸透が進む。一方で、デジタルを活用した画期的と目されるサービスや企業が頭打ちになるニュースも多い。そうならないために、目を向けるべき課題と取るべき施策とは何か。小売業界に精通する筆者が解説していく。
重要テーマ(3)ダイナミックプライシング
さまざまな産業で物価が上昇傾向にあり、小売でも数万アイテムが値上げされてきました。各社の原価や経費が高まる中で、値上げは仕方がない部分もあります。過疎化しているエリアへ少数の商品を補充に向かう経費と、都市部で複数店舗へ大量に納入するコストが同じでないことは誰が見ても明らかです。
注目したいのは、物流コストや販売量を含めて価格を変動させていく動きが出始めていることです。しかし、これは大きなリスクが潜んでいます。まず、流通量が少ない地域は価格を上げる判断をすることになり、企業への信頼性やブランドを棄損(きそん)するリスクがあるでしょう。そのため、自社の観点だけではなく、競合と顧客の観点も含めた3方位で価格を考察していく必要があります。こうした観点で、ダイナミックプライシングを検討する企業が増えているのです。
しかし、ダイナミックプライシングも簡単なものではありません。まず、競合の価格を網羅的にどうやって取得できるのかは課題です。インターネットで見られるチラシをデータ化しても、あくまで一部分の商品であり、かつ全店を網羅するのは現実的ではありません。そうなると、競合店舗の価格はアナログに取得するしかなくなってしまいます。
もしアナログな手法で競合の価格を取得できても、その次には「価格を下げるべきか、上げるべきか」という判断の基準作りが控えています。ブランド力がある商品で値引きをしてはイメージが損なわれたり、ユーザーが値引きを待って購入する買い控えを誘発したりしてしまいます。値下げが販売数や利益につながったかを検証するサイクルも必要になります。つまり、下げるもリスク、上げるもリスクなのです。
単にAIツールを入れて自動的に価格提示されたものを展開する、ツールありきの施策ではいけません。デジタルツールだけでなく、アナログな人的判断とのバランスにも相当な注意を払っていく必要があるのです。その他にも、基幹システムとの連携やブランドイメージへの影響、物流・在庫など総合的な考察をしながら臨まなくてはなりません。前述した店舗別の品ぞろえとも関係しており、店舗ごとのユーザーニーズに対応しながら商品と価格を細分化させていくのは、小売の根幹を担うテーマです。
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