物流初心者でもできる、現場で改善すべき「宝の山」の見つけ方:仙石惠一の物流改革論
物流はよく「宝の山」だといわれる。まだまだ改善が進んでおらず「改善という宝」が埋もれているからだ。その見つけ方とは。
連載:仙石惠一の物流改革論
物流業界における「2024年問題」はすぐそこまで迫っている。この問題を克服するためには物流業の生産性向上以外の道はない。ロジスティクス・コンサルタントの仙石惠一が、運送業はもちろん、間接的に物流に携わる読者に向けて基本からノウハウを解説する
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物流はよく宝の山だといわれる。まだまだ改善が進んでおらず「改善という宝」が埋もれているからだ。一方で、その宝の山を見つけるためには、できるだけ多くの情報を入手しておく必要がある。そこで、自社の物流にはどのような機能があるのかについて知っておきたい。
物流における機能とは何か。一般的には次のように定義されている。
- 包装機能:物品の輸送や保管などの物流過程において、その価値および状態を維持するような適当な材料または容器を使用して物品を保護することである。物流の最重要機能と考えられる。
- 荷役機能:生産工場内や生産から消費者への流通過程において、包装、保管、輸送の前後で付随して行われる、移動、ピッキング、仕分けなどの諸作業のことである。
- 輸送機能:物資と人との空間的隔たりを克服するための、場所的な移動のこと。陸上、水上、空中の各輸送に分かれ、その選択は重要な要素となる。
- 保管機能:物品を貯蔵し管理すること。貯蔵に加えて物理的管理を行い、商品の価値を維持することも重要な役割である。
- 物流加工機能:物流過程において物品に対して直接付加価値を与える行為で、必要なサイズへの切断や製品へのクリップ付けなどの比較的簡単な加工や組立を行うことである。
これらの機能別に、現在実施している物流業務についてどのようなことを実施しているかを洗い出しておきたい。その際、内製かアウトソースかは問わない。整理することで物流情報が頭にインプットされ、物流に関する知識と関心が身につくことだろう。
物流機能別にコストを把握しよう
次に現在かかっている物流コストについて把握しよう。上記で整理した物流機能ごとに、それぞれ年間でいくらの物流コストが発生しているかについて調査していく。
- 包装機能では、包装や荷姿(にすがた)に必要な資材費や容器購入費、製品の詰め替えに要している費用、容器の補修費用などが挙げられる。
- 荷役機能では、工場内の物流人件費、アウトソース先への支払費、物流倉庫の人件費などが挙げられる。
- 輸送機能では、内製輸送を行っている場合の人件費やトラックなどの償却費、アウトソース先への支払費、軽貨物利用などの特別便支払費などが挙げられる。
- 保管機能では、工場内倉庫の土地代や建物償却費、外部倉庫への支払費、保管時に必要となるラックやフォークリフトの費用などが挙げられる。
- 物流加工機能では、加工場の土地代や建物償却費、エネルギー費、加工のための人件費、必要機材の費用などが挙げられる。
これら以外にも、物流情報を授受するための情報システム費用、物流管理スタッフにかかる人件費なども落とすことなく把握しよう。物流にかかわる費用の中には製造原価に含まれているものもあるだろうが、ここではその中からも抽出することで漏れのないようにすることを心掛けたい。
またできれば調達先が負担している物流費についても、ある程度推計でも良いので把握しておきたい。サプライヤーからの納入品には必ず物流費が含まれている。それがどれくらいかかっているかをつかんでおけば、将来的に調達物流の改善をする際にも役立つ。この物流費も、工場が調達部品費や調達資材費として間接的に支払っているのである。
参考までに、世の中の「売上高物流コスト比率」のデータ推移を以下に紹介する。
これは日本ロジスティクスシステム協会が毎年行っている会員企業に対するアンケート調査結果だ。ただし、この値は各企業で「見えている部分に過ぎない」ということに注意してもらいたい。
運賃や外部倉庫費などといった、対外的な支払い費用という把握しやすいものしかカバーできていない可能性が高い。そのため前述の1〜5に示したようなコストは把握しきれていない可能性が高いことに留意しておきたい。
「宝の山」への優先アプローチ
物流コストを機能別に把握することで、今まで見えていなかったさまざまな問題点に気付くはずだ。思っていた以上に物流コストが発生している業務を発見することもあるだろう。
この気付きが、すなわち宝の山の存在への気付きになる。早速その中に埋まっている宝を掘りたくなるところだが、まずは冷静に優先順位を決めていくと良いだろう。皆さまの会社が製造業であれば、優先度が高いものは生産とつながりの深い項目だ。
工場では生産ラインにおける作業性が、付加価値業務である。これを徹底的に効率化するために、物流サービスを向上させることが必要だ。つまり物流を使って生産ラインの効率化を図ることが求められる。
工場の付加価値業務を効率化できるならば、相応のコストがかかってもやるべきだ。反対に、構内物流工数の削減を先に着手してはならない。なぜなら、その結果として生産ラインへの物流サービスが不十分となり、生産の効率化にブレーキがかかってしまうおそれがあるからだ。
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