糸井重里が語る「ほぼ日手帳の海外売上33%増のワケ」 売上高は過去最高
ほぼ日の2023年8月期の決算は、売上高が68億1842万円で過去最高となった。純利益も4億1191万円で増収増益。主力商品『ほぼ日手帳』の海外販売の増加が好調な業績をけん引した。
コンテンツの企画、編集、制作、販売を手掛けるほぼ日の定時株主総会が、2023年11月26日に開催された。23年8月期の決算は、売上高が68億1842万円で過去最高となったほか、純利益は4億1191万円で増収増益。主力商品『ほぼ日手帳』の海外販売の増加が好調な業績をけん引した。
ほぼ日手帳“海外売上33.1%増” 海外の構成比率47.7% なぜ?
ほぼ日の株主総会は、代表取締役社長の糸井重里氏が議長となって議事が進められた。 23年8月期の経営成績は、売上高が前期比15.4%増の68億1842万円で過去最高となった。営業利益は前期比114.2%増の5億8967万円、経常利益は101.1%増の5億8475万円。純利益は100.2%増の4億1191万円で、増収増益だった。
過去最高の売上高をけん引したのは、主力商品の『ほぼ日手帳』の好調だ。好調要因の1つは、ユーザーの拡大にある。『ONE PIECE magazine』とコラボレーションした手帳本体やカバーが大きな反響を呼び、新たなユーザーの獲得につながった。
もう1つの大きな要因が、海外売上高の増加だ。欧米での『ほぼ日手帳』への関心の高まりを受けて、公式サイトのコンテンツやSNSの英語対応を強化したほか、英語版の手帳本体のラインアップを大幅に拡充した。
その結果、北中米と欧州を中心に大きく売上高を伸ばし、海外売上高は前期比で33.1%増加。『ほぼ日手帳』における海外売上高の構成比率は47.7%と、前期比で1.7ポイント増加した。『ほぼ日手帳』全体の売上高も、前期比で28.3%と大幅に増加している。
手帳以外の商品については、売上高は前期並だった。寝具を扱うブランド「ねむれないくまのために」が好調に推移したほか、4月29日から7日間にわたって新宿で開催した「生活のたのしみ展」は販売総額が過去最大となった。一方で、アパレル関連の売上高は減少している。
『ほぼ日手帳』は累計1000万部を突破
主力商品の『ほぼ日手帳』は02年版から販売を始めた。ユーザーの声をヒントに毎年少しずつ改良を重ね、発売から20年以上経った現在でも売上高を伸ばしている。
23年版では手帳カバーを付けずにより手軽に持ち運べる新タイプとして、本のような見た目の『ほぼ日手帳 HON』を新たに発売。新型コロナウイルス感染症などの影響で減少していた販売部数は増加に転じた。世界の100を超える国と地域で82万部を売り上げた。
23年9月から2024年版の販売も始めたことで、累計販売部数が1000万部を突破したことも株主総会で伝えられた。
『ほぼ日手帳』は今後も成長が期待されている。直販ECサイトでは言語や通貨、決済手段の対応範囲を広げるD2C越境EC向けサービスを新たに導入するなど、海外ユーザーが購買しやすい環境を整えることで、海外売上高のさらなる伸長を目指している。同時に、国内でも継続的な成長を続けたい考えだ。
今期の業績予想は、『ほぼ日手帳』の売上高増加を前提に、前期比8.5%増の74億円の売上高を見込む。過去最高の売上高を目指すとともに、販売物流関連コストの低減を図ることで、各段階の利益でも過去最高益を予想している。
現在の株価は「非常に悔しい」
ほぼ日の株主総会は「ほぼ日の株主ミーティング」の1つとして、ファンミーティングのような雰囲気の中で進められる。会場からは業績報告について、さまざまな質問が上がった。
その一つが株価だ。ほぼ日は17年3月に当時の東証ジャスダックに上場。現在は東証スタンダードに上場している。23年8月期は、前期までと同様に1株当たり45円の期末配当が決議された。
5年前に購入した株主は「買ったときに比べてそんなに上がっていない、むしろ下がっているような感じですが、株価の変動について会社としてどう考えているのか」と経営陣を質(ただ)した。これに対して取締役管理部長の鈴木基男氏が回答した。
「株価については、基本的には市場がつけるものと受け止めておりまして、この状況が続いていることについては、非常に悔しく思っておりますけれども、あくまでしっかりと事業を伸ばし、伸びている要因が、私たち固有の強さにあるところを、きちんと業績を出しながら伝えていくことで、より価値を受け止めていただくところに尽力するしかないものと考えております」
続けて、糸井氏も次のように述べた。
「悔しいという非常に感情的な言葉がありましたけれども、それは僕も同じです。うちのメンバーは全員が株主ですので、同時に悔しい気持ちをもちながら、まだ株式市場では注目と期待がされていないんだなと言う気持ちで、地道な仕事を続けている次第です。頑張りましょう」
また糸井氏は株主に対して、ほぼ日の今後についても語った。次回はその内容をお伝えする。
著者プロフィール
田中圭太郎(たなか けいたろう)
1973年生まれ。早稲田大学第一文学部東洋哲学専修卒。大分放送を経て2016年4月からフリーランス。雑誌・webで大学問題、教育、環境、労働、経済、メディア、パラリンピック、大相撲など幅広いテーマで執筆。著書に『パラリンピックと日本 知られざる60年史』(集英社)、『ルポ 大学崩壊』(ちくま新書・筑摩書房)。HPはhttp://tanakakeitaro.link/
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