小売のECやグローバル展開で考えるべきテーマとは? 2024年の重点課題総ざらい:後編(3/3 ページ)
テクノロジーの浸透が進む小売業界で、2024年に目を向けるべき課題、取るべき施策は何か。ECや出店、グローバル展開などのテーマに絞って、小売業界に精通する筆者がポイントを解説していく。
重要テーマ(10)グローバル展開の軸となる知財戦略
日本は米国と比較し、知財戦略で後れを取っています。米国の小売ではウォルマートをはじめ特許の申請を積極的に行っており、競合の模倣防止のみならず市場拡大のための知財オープン戦略と、自社差別化のためのクローズ戦略をうまく組み合わせて展開しています。
それに対し、日本の小売企業による特許申請は年間に数えるほどしか見当たりません。知財の活用は新規性を保持するために、事業やソリューション、製品を作る初動の段階から戦略的に動くことが必須です。サービスをローンチしてからでは特許が取得できないからです。
特許取得のメリットは、その価値を自社に保有して差別化を図れるだけではありません。グローバルに進出する際にも各国における特許を確保しておくことで、優位性の確立につながります。特許を他社に抑えられていると、グローバル戦略を推進する際のボトルネックにもなりかねません。そのためグローバル企業は、知財の活用についてかなり戦略的かつ先見的な動きをしています。日本においても今後、戦略的法務を軸にした知財戦略の確立が求められます。
重要テーマ(11)開示が義務化された人的資本経営の勘所
最後のテーマは、人的資本経営です。内閣府令の改正により、23年3月期から有価証券報告書における人的資本情報の開示が上場企業へ義務付けられました。経済産業省は人的資本経営を「人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」と定義しています。
テクノロジーの発展が目覚ましい中にあっても、人的価値を資本と捉え差別化要素にしていく。これは、全ての経営活動に関わるテーマといっても過言ではありません。テクノロジーを導入して人員を削減するのではなく、人とテクノロジーの役割定義から再考察して、人的業務の高度化を図る。その実現に向け、人材の教育・採用・多様性、さらには労務体系や経営者の意識まで、あらゆる領域で変革が求められます。
開示が義務付けられたからチェックリストのように着手するのではなく、経営に求められる本質的かつ普遍的課題の投げかけが人的資本経営のフレームの中にはあふれています。24年は各社の人的資本に関する取り組みがさらに進化していくことでしょう。
24年を迎えるに当たり、前後編に分かれて小売における11の重要テーマを解説しました。小売に関わる全ての方が、さらに発展していくことのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
「コロナ禍以前」に復活の小売業 識者が2023年のホットトピックを振り返る
コロナ禍が収束の兆しも見せ始めた2023年。小売業の各社は、どんな取り組みを行い、またどういった状況にあるのか。小売業に詳しい著者が、各業界別に2023年の動向を振り返る。
「ウチは関係ない」で済まされない 人的資本経営の本質とポイント
何かと耳にすることも増えた「人的資本経営」。情報開示義務があるのは現在上場企業のみだが、だからといって非上場の企業は取り組まないで良いわけでは全くない。取り組みのポイントや参考になる事例を紹介する。