あまりに「日本企業あるある」だ──ダイハツ不正の背景にある病理を読み解く:働き方の「今」を知る(2/3 ページ)
ダイハツ工業で、自動車の安全性確認試験での不正行為があったことが明らかになった。「第三者委員会による調査報告書」には、同社の組織風土や職場環境における問題点が生々しく記されている。本件から、日本企業にはびこる病理を読み解く。
「できない」とは言い出せないプレッシャー
報告書では従業員アンケートの自由記載回答も豊富に引用されているが、例えば以下の事象などは、大なり小なり多くの会社で見られる事象であり、まさに「あるある」と共感できた方も多かったことだろう。
- 「管理職は表向きは『何でも相談してくれ』というものの、実際に相談すると、『で? 』と言われるだけで相談する意味が無く、問題点を報告しても『なんでそんな失敗したの』『どうするんだ』『間に合うのか』と詰問するだけで、親身になって建設的な意見を出してくれるわけではない」
- 「『失敗してもいいからチャレンジしよ』でスタートしても、失敗したら怒られる」
- 「『できない』と声を上げると『なぜできないのか』『できるようにするにはどうするのか』と逆に仕事量が増えるために、声を上げないことや、諦め感などが出てきている」
アンケート調査では、同社内で不適切な事象が発生した原因や背景事情について、 15項目の選択肢から選択(複数選択可能)して回答を求めるとともに、自由記載欄を設けて質問された。その中で、回答数の多い項目順に並べたのが次の表だ。
リードタイムを短縮することで開発工数と予算の削減につながる「短期開発」は、同社の大きな差別化要因である。必然的に、開発スケジュールは厳しくなり、あらかじめ定められた発売日を厳守するために、どんな事情があろうとも「できない」などと言い出せない強烈なプレッシャーにさらされていたことが読み取れる。
また同社は歴史的に、長らくトヨタから小型車・小型エンジンの開発・生産・OEM供給を委託されてきており、トヨタとは密接な関係にある。実際1992年以降、ダイハツ社長はトヨタ出身者がほとんどを占め、1998年にはトヨタの連結子会社となり、2016年には完全子会社化されている。その間、トヨタ出身社長のもとで販売された「ミラ イース」は、従来よりも大幅に短期間での開発を実現し、同社の大きな成功体験となった。
しかしその裏では、開発車種の増加により開発人員が不足する状況となっていたにも関わらず、充分な人員増強はなされず、開発部門の自助努力に頼って短期開発が推進された。
本末転倒なお話だが、開発スケジュールを死守することが至上命令となり、何かしら問題が発生したとしても変更が困難という状況となれば、結果的には最後の工程である認証試験にシワ寄せがくることになる。しかも報告書によれば、「認証試験は合格して当たり前。不合格となって開発、販売のスケジュールを変更するなどということは許されない」といった風潮が社内には根強かったという。
皮肉にも、人がいない中で何とか仕事を回そうとする社員の真摯な努力が、結果的に自分たちの首を絞めることとなり、不正行為につながってしまったように思われる。この点は従業員アンケートでも言及されている通りだ。
「総じてトヨタの期待に応えるために、ダイハツの身の丈に合わない開発を、リスクを考えずに推し進めたことが大きな要因だと思います」
これは象徴的な例だが、他にもコスト低減のために法規認証や安全性能の評価を担当する人員を最大期と比して半分以下にまで削減した結果、人数がもっとも少ない時期に不正行為が突出して増加した、というエピソードも職場風土を物語っている。
報告書では、短期開発の強烈なプレッシャーの中で追い込まれた従業員が不正行為に及んだものであり、従業員は経営の犠牲者。責められるべきはダイハツの経営幹部であると厳しく指摘する。
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