アイマスプロデューサー・わかちこPに聞く「ファンビジネスの本質」
「アイマス」シリーズのアニメ展開を統括するプロデューサーである「わかちこP」ことバンダイナムコエンターテインメントの狭間和歌子さんに、ファンビジネスの本質を聞いた。
バンダイナムコグループが2005年から展開するアイドルゲームコンテンツ「アイドルマスター(アイマス)」シリーズは23年12月9〜10日、同グループが展開する「ラブライブ!」シリーズとの合同ライブを東京ドームで公演した。両日共に満席となり、2日間で約9万人が世界中から集まった。配信の視聴者を含めると、計27万人を動員している。
この「アイマス」シリーズのアニメ展開を統括するプロデューサーが「わかちこP」の愛称でファンに親しまれる、バンダイナムコエンターテインメントの狭間和歌子さんだ。わかちこPは「アイマス」シリーズの1ブランド『ミリオンライブ!』の統括プロデューサーも兼任する。
「アイマス」ではプレイヤーがゲーム内でプロデューサーとしてアイドルと接することから、ファンのことを「プロデューサー」と呼んでいる。18年に及ぶシリーズ展開で、実際のプロデューサーは何を大切にすべきなのか。、わかちこPに、「アイマス」プロデューサー誕生の裏側 営業経験を生かしたバンナムの人事に続き、ファンビジネスの本質を聞いた。
狭間和歌子 2007年バンダイに入社し、バンダイナムコゲームス(現バンダイナムコエンターテインメント)にて10年間家庭用ゲームの営業を担当。その後『テイルズ オブ』シリーズや、『ゴッドイーター』シリーズのアプリゲームのプロデュースを経験し、「アイドルマスターミリオンライブ! シアターデイズ」をリリース。現在は「アイドルマスターミリオンライブ!」プロデューサーおよび、「アイドルマスター」シリーズアニメ&マーケティング統括を担当
メディアミックスを展開 アニメの位置付けは?
――『ミリオンライブ!』や、スマホアプリゲーム『アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ』(『ミリシタ』)のプロデューサーとして、作品とどのような関わり方をしているのですか。
現在は『アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ』を含む『ミリオンライブ!』全体の事業展開にかかわっています。
特に大切にしているのは、各事業の展開や施策を点で終わらせないように、ゲーム内の施策をライブとどう連動させていくのか、MD(マーチャンダイジング)商品やライセンス展開とどう組み合わせていくのかという連動性です。それによりゲームを超えて、よりリアリティーのある施策を実現するように意識しています。
――プロデューサーとして中心になって動かした企画はありますか。
例えばゲームプレイを通じて参加できるリアルイベント「ミリシタ感謝祭」の実施や秋葉原エリアで実施した、各企業と連携したスタンプラリーとゲーム周年ステージイベントは思い入れがありますね。リアルとゲームの親和性を高めていく展開を中心に、開発や各事業の担当の協力を得ながら進めてこられたと思っています。
――ビジョンを明確にしてトップダウンで進めていくプロデューサーや、部下からの意見の集約に長けるプロデューサーなど、さまざまなタイプがいると思います。わかちこPさんはどうご自身を評価していますか。
ある程度大きな方針や思いははっきりと伝えてしまうタイプなので、トップダウン型だと周囲から思われていると思います。『ミリオンライブ!』10周年の時には、10周年のライブはツアーにすること、ブランド10周年楽曲や衣装をつくってゲームとリアルで盛り上げること、アニメを10周年期間中に展開することなどは自分の中ではっきりしたイメージがあったので、関係する皆さんにご理解とご協力いただけたことを本当に感謝しています。
一方で、だからこそマネジャーとして、周囲の意見をくみ上げていけるようなスキルを身につけねばと常に思っています。
――『ミリオンライブ!』のアニメも、わかちこPさんの発案に近いのでしょうか。
『ミリオンライブ!』のアニメは、まさに私が『ミリシタ』をリリースしたときから絶対に達成したいミッションの一つと感じていました。何とかしてアニメは実現しようと思ってきたんです。本当にお待たせしてしまいましたが、ここまで待ってくださった(観客である)「プロデューサー」の皆さんに対しては、感謝の気持ちしかありません。
ただ、アニメ化するという思いがありながら、実際はスムーズにいかなかったのが事実です。だからこそアニメに関する「プロデューサー」の皆さんへのコミュニケーションの部分は、特に気を付けていました。
――どういったユーザーコミュニケーションをしたのでしょうか。
ライブの最後の業務連絡の中で、アニメ化の情報がないことによって「プロデューサー」の皆さんが、がっかりする表情を何度も目の当たりにし、悔しいと思っていました。皆さんをがっかりさせていることを真摯に受け止め、まずは誠実に「製作は進行しているんだよ、止まってはいないんだよ」と、詳細までは伝えられなくても、その事実をきちんと伝えることは意識してきました。
――つまりアニメの製作に、それだけ長い時間をかけてきたわけですね。
座組を整えることにかなり時間がかかってしまっていました。
――ただ、結果的には構成が非常にしっかりしていました。シナリオから演出面まで、ファンから新規層までの視聴者から支持される名作になったと思います。
綿田慎也監督も、脚本家の加藤陽一さんも、『ミリオンライブ!』ならでは良さを、良く理解してくださっていました。「ミリオンライブ!」というブランドは、10年前にリリースされたGREE版「ミリオンライブ」から展開がスタートしました。当初のアイドルの舞台はまさに「手作り」のテントのような劇場。その後アプリゲーム「ミリオンライブ!シアターデイズ」がリリースされ、765プロライブ劇場が舞台となりました。
その歴史をご存じの監督だからこそ、10年間「ミリオンライブ!」を応援し、歴史と変遷をともに歩んできたプロデューサーの皆さまに「懐かしさ」と「新しさ」を感じていただける作品に仕上げられたと思っています。
――8月から3幕に分けてアニメ本編の先行劇場上映が始まり、口コミで評判が広まりました。10月にはテレビアニメ放送も始めました。手応えはいかがでしたか?
私もいくつかの劇場に自分で足を運びました。目の前で喜んで泣いている「プロデューサー」さんがいるのを見て、やっとアニメを届けられてよかったという感動と安心感をかみしめていました。
今回、劇場公開直後からテレビアニメをスタートするという短期間での展開ではありました。結果的に劇場には多くの「プロデューサー」さんが何度も足を運んでくださる姿を拝見したり、結果的に劇場でロングラン上映も実施されたりしていたので、想定以上の動員になったと思っています。
――テレビアニメ放送の時間帯も、1クールの放送では異例の「ニチアサ」と呼ばれる日曜朝の放送でした。
おかげさまで午前10時から「プロデューサー」の皆さんがリアルタイムで視聴してくださって、毎週のようにハッシュタグ「#ミリアニ実況」がXのトレンドに入っていました。トレンドに入ると「プロデューサー」さんたちも「またトレンドに入れた」と喜んでくださるので、そういった反響が得られています。
監督と、アニメを制作してくださった「白組」さんには本当に感謝しています。結果的に長期になってしまったアニメのプロジェクトを最後まで支えてくれたのは、このバンダイナムコエンターテインメントという会社です。制作スタッフと当社、ずっと応援し続けてきてくれた「プロデューサー」の皆さん、この3者がいたからこそだと思っています。
――ゲームが原作の作品で、アニメの展開はメディアミックスになると思いますが、アニメは全体としてどのような位置付けなのでしょうか。
アニメを展開することで作品の世界観と魅力を深められますし、ゲーム原作のこの作品を知らない幅広い方々に訴求できます。
『アイマス』のアニメは、まずこのアニメ作品を通じて「プロデューサー」の皆さんたちに喜んでいただくことを前提としていて、その上でゲームやCD、ライブといった各メディアを活用しながら複合的に満足度を上げることを念頭に置きました。
――アニメで新しい層を取り入れることで、IPを持続させていく狙いもあると思います。
そうですね。IPを持続させていくには、1人でも多くの「プロデューサー」の皆さんに作品を知ってもらうことが大切だと思っています。アニメの展開によって、1人でも多くの方に作品に触れてもらい、そこからアニメを間口にゲームでも遊んでもらったり、ライブに行ってもらったり、商品を購入してもらったりという形で各事業につながっていくとうれしいです。
――アニメでは、シアターの周辺が東京都江東区の豊洲地区を舞台にしていて、実際「ららぽーと豊洲」ともコラボイベントを展開しました。この設定はどこから考えたのでしょうか。
『ミリシタ』の世界観をそのままアニメに落とし込む過程で豊洲が舞台になりました。ゲームのシアターの背景画像から、「プロデューサー」さんたちから「豊洲が『聖地』なんじゃないか」という声が以前からありました。実はその声を公式で使わせていただいた形ですね。
ららぽーと豊洲さんにはコラボのお声がけをして、イベントや、ららぽーと豊洲の映画館でロングラン上映を展開しています。
――アニメ1話では、23年1月の日本武道館でのライブで「プロデューサー」たちの拍手を実際に収録した音を使用しています。これもファンからするとうれしい取り組みだと思うのですが、これもわかちこPのアイデアなのでしょうか。
実はそれは制作チームからやりたいという話をいただいて、音響のチームに協力してもらいました。もともと大人数の音が必要だったのですが、これを録れるのは結局ライブ会場が一番ではないかという話があがりました。
その上で、長年待ち続けてくださったこのアニメ作品に、プロデューサーさんが参加してくださることで、より作品に深みが増し、何よりプロデューサーさんが喜んでくれると思い、みんなで楽しみながら実現しました。
――とはいえ、収録の際にはわかちこPさんが会場1万人以上の「プロデューサー」を前に、マイクを持って拍手の陣頭指揮をしました。他にも動画配信やイベントなどで直接プロデューサーと接する機会が多く、実際のプロデューサーとしては珍しいタイプかとも思います。その際に何を大切にしていますか。
いつも生配信やイベントなどで「プロデューサー」さんを前にしてコミュニケーションをとる機会があります。そこで意識していることは、2つですね。1つは「プロデューサー」さんと同じ目線であること。もう1つは誠実に分かりやすく伝えることだと思っています。
「プロデューサー」さんと同じ目線であることは『アイマス』の世界観において、遊んでくれている皆さんも「プロデューサー」ですし、私もプロデューサーです。私は皆さんと一緒にこの作品やアイドルをプロデュースしている立場であって、皆さんがいて自分がいるという、その目線をぶらさないようにしたいと思っています。
ですので、SNSやライブなどの「プロデューサー」の皆さんのリアルな反応は、自分でもリサーチして、どう思われているのかは同じ目線で確認しながらコミュニケーションを取るようにしています。新情報を発表する際も、このコメントを聞いて「プロデューサー」の皆さんはどんな気持ちになるかを配慮して言葉を選んだり、伝え方を気を付けたりしています。
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