新潟市へ「オフィス移転する企業」が倍々で増えている理由
今までにはない施策を打ち出したことで、近年、新潟市へオフィス移転する企業が倍々で増加中である。成果が生まれている要因を探った。
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2020年、新潟市が推し進める都心部の新たなまちづくりに合わせて「にいがた2km」と銘打ったプロジェクトが立ち上がった。
にいがた2kmが指し示す範囲とは、新潟駅から万代、古町までの3地域を結ぶ約2キロのこと。該当エリアを歩いてみると、至る場所にロゴが掲示されていることからも、力の入れ込みようがよく分かる。
新潟市が同プロジェクトに注力するのは、およそ60年ぶりとなるJR新潟駅の大規模リニューアル工事をはじめ、駅周辺の再開発事業によって、街を活性化させたいという並々ならぬ思いがあるからだ。
このプロジェクトに素早く呼応したのが、同市の企業誘致チームだ。今までにはない施策を打ち出したことで、近年、新潟市へオフィス移転する企業が倍々で増加中である。成果が生まれている要因を探った。
かつては企業誘致に苦戦していた
実は新潟市はこれまで、企業誘致が決してうまくいっていたわけではなかった。歴史を振り返ると、製造業については1984年に「新潟市工業振興条例」を制定し、工場の立地促進や設備投資の支援などに乗り出した。しかしながら、市外から移転してくる企業は少なかったという。
「新潟市は農業都市でもあり、各種の土地利用規制があります。田んぼをつぶして工業用地を造ることはハードルが高く、さらに、県内他都市に比べ相対的に土地価格が高いこともあり、市外からの製造業誘致は容易ではないのです」と、新潟市経済部企業誘致課の神田武行課長は述べる。
そこで新潟市は、製造業のように広大な土地を必要としない業種にも目を向けることに。その代表例が情報通信(IT)産業だ。2002年にIT関連企業の誘致を目的とした補助金制度を新設。当時は首都圏企業が地方にコールセンターを開設する動きが活発だったという背景もあった。
新潟市でも一定数のコールセンター誘致実績はあったが、地方大都市には及ばないでいた。というのも、札幌市や仙台市、福岡市といった地方の大都市が優先的に選ばれていたからだ。「新潟は1〜2周遅れ」と神田課長は自嘲気味に話す。
ただ、結果的にそれが新潟に目を向けさせる一つのきっかけとなった。上述の大都市圏ではマーケットが飽和状態になり、人材の確保が難しくなったことに加えて、東日本大震災以降、BCP(事業継続計画)の観点から拠点を分散する重要性が高まっていた。そこで首都圏からアクセスの良い新潟市にコールセンターの他にも、BPOセンターやシステム開発会社、アニメ制作会社など多種多様なIT関連企業の進出が相次いだ。
製造業およびIT産業以外では、新潟港や空港、高速道路網といった交通インフラの活用を見据えた物流業の誘致にも積極的である。とはいえ、長らくは他の自治体との差別化を図れずにいた状況だった。
新潟市への企業進出が倍増
そんな新潟市の企業誘致課に転機が訪れたのが、冒頭に述べたにいがた2kmプロジェクトの開始だ。都心部の再開発とセットで企業誘致を促進するプログラムを独自に作り上げたのである。
具体的には、「デジタル・イノベーション企業立地促進補助金」における「にいがた2km型」と呼ばれる制度で、対象エリアにある22年以降に新築もしくは建て替えられたビルに入居する市内初進出企業などの条件で、以下の補助を行っている。
- 事業所賃借料の4分の3を補助(上限5000万円/年、最大3年間)
- 新規常用雇用者数に応じて25万円〜150万円/人を補助(同上)
進出企業は新築ビルを選択することでより大きな恩恵を受けられる。かたやビルオーナーにとってもテナントが埋まりやすくなるため、双方にとってメリットがある施策と言えよう。
効果はテキメンで、この制度をスタートしてから進出企業数はうなぎのぼりに。20〜21年度は共に8社だったのが、22年度は16社、23年度も11月時点で前年と同等数の企業が進出を果たしている。
新潟県とのタッグが企業から高評価
補助金の充実が企業誘致を加速させたのは間違いないが、単にそれだけが要因ならばどの自治体も苦労はしない。それ以外に何が、新潟市にオフィスを構えるモチベーションになっているのだろうか。
環境面では、東京駅から新潟駅まで新幹線で最短89分という距離の近さや、人口77万人の都市の中に大学が10、短期大学が4、専修学校が44もあり、若者を雇用しやすいといった利点がある。
ただ、それ以上に、新潟県と緊密に連携している点が多くの企業から評価されていることが分かった。
「新潟県とタッグを組んで企業誘致を進めていますし、県の補助金制度も併用できます。実際には県と市のダブル補助が可能な自治体は結構ありますが、一緒に誘致活動までをしているところは少ないと思います。よく言われるのは、県と市が本当に熱意を持って向き合ってくれるし、一緒に来てくれるとすごく安心感があると」(神田課長)
加えて、視察段階から手厚いサポートをしている点も、進出を検討する企業に好印象を与えている。具体的には、候補物件の案内から地元企業や教育機関の紹介などを行う。しかも視察費用の補助も出している。こうした業務をメインで担当するのが同課の阿部隼人主査。22年度は41社が視察に来たため、ほぼ毎週そのアテンドをしていたという。
「実際に新潟に来てもらう前に東京事務所がいろいろと情報提供したり、先方のニーズを聞き取ったりしておきます。それを基に大体2日間でさまざまな場所を見てもらう形が一般的ですね」と阿部主査は説明する。時には視察の途中で進出を即決する企業もあるそうだ。
しかしながら、今年度は既に70〜80社が視察に訪れている状況で、多忙を極めている。さすがにやりすぎではないかと思うが、阿部主査はこう切り返す。
「何よりもまず新潟に足を運んでもらわないと、首都圏からの距離感や街の雰囲気などは分からないじゃないですか。体験してもらうのが一番。その上で希望があれば地元の企業とつないだり、行政の他部門を紹介したりもしますね」
こうした気遣いが進出の後押しになっているというわけだ。
企業が求める物件の確保が課題
このように、企業からの引き合いが強まっている一方で、課題はその受け皿となる場所が不足している点だ。
「良い新築物件はどうしても早い者勝ちになってしまいます。進出してくる企業も人材集めのためにオフィス環境を売りにしますから当然でしょう。でも、(用地などの問題で)新築ビルを建てるのは限度があります。私たちとしてはビルの建設補助金を創設したので、古いビルの建て替えを進めてもらいたいです。そこが課題ですね」(阿部主査)
また、スモールスタートで事業を展開したい進出企業に適した、シェアオフィスのような場所も少ない。
「物件がよりどりみどりであれば私たちもどんどん紹介できますが、現実的には選択肢が限られています」と阿部主査は残念がる。
新潟市にとって企業誘致の最大の目的は雇用確保だという。新潟市は若者の転出率が課題で、「新潟県人口移動調査」によると、18年から22年にかけて20代人口は約10%減少している。それを食い止めるにはやはり魅力的な職場環境の提供が不可欠であろう。
その上で、誘致した企業に期待したいのは地元産業との連携だと神田課長は強調する。 「いつまでも東京の下請け業務だけでは、地域経済の底上げにはなりません。地場の企業などとつながって、新しい事業が生まれることを望みます」
それに向けて新潟市も企業同士のマッチングイベントを主催するなど、ビジネスの可能性を広げる努力を惜しまない。
09年に始まった新潟市の「新潟駅駅前広場整備事業」は、いよいよラストスパートに入り、25年度に全て完成する予定である。その時に周辺エリアのビジネス環境はどう様変わりしているだろうか。
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著者プロフィール
伏見学(ふしみ まなぶ)
フリーランス記者。1979年生まれ。神奈川県出身。専門テーマは「地方創生」「働き方/生き方」。慶應義塾大学環境情報学部卒業、同大学院政策・メディア研究科修了。ニュースサイト「ITmedia」を経て、社会課題解決メディア「Renews」の立ち上げに参画。
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