トヨタグループ不正 謝罪会見の「創業者は苦労する母を楽にしたかった」話は意味あるのか:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(1/3 ページ)
相次ぐ不正問題でゆれるトヨタグループ。豊田章男会長は1月30日、会見で一連の不祥事を謝罪した。その中で語られた「グループとしてのビジョンを掲げる」「次世代が迷った時に立ち戻る場所を作る」といったメッセージや、創業時の逸話に意味はあるのだろうか。
相次ぐ不正問題でゆれるトヨタグループトップの豊田章男会長は1月30日、トヨタグループ発祥の地「トヨタ産業記念館」で会見し、一連の不祥事を謝罪した上で「責任者として、グループの変革をリードする」との決意を示しました。
豊田会長のこの謝罪会見を評価する声も多くあった一方で、一部の識者からは「謝罪会見なのに、グループビジョン説明会とか言っちゃうから変われない」「創業者に立ち返るのもいいけど、その前に今の状況どうにかすべき」「謝罪の体をなしてない印象を受ける」といった批判も少なくありませんでした。
確かに、企業の不正が発覚したときに行われるトップの記者会見とは、少々空気感が違いましたよね。そもそもグループ会社の不正を生んだのは、トヨタの経営に問題があったからなのは明らかです。豊田会長の「私が今やるべきことは、グループとしてのビジョンを掲げることだと考えた」とのコメントに違和感を抱くのは、ごく自然な心の動きかもしれません。
しかし一方で、豊田会長が送ったメッセージには、不正を生まない企業になるための「極めて重要なメッセージ」も含まれていました。
「次世代が迷った時に立ち戻る場所を作ること」――。
この発言は私が本コラムでも触れてきた、「会社アイデンティティ」であり、「ミッション」です(詳細は後述します)。
この記事では、トヨタグループの不正を振り返りながら「不正が生まれるわけ」について、あれこれ考えてみます。
やむにやまれぬ状況に追い込まれ、不正行為
まずはトヨタグループの不正問題のおさらいから。
- 2022年3月、日野自動車はエンジンの排ガスや燃費に関わる性能試験で不正発覚。8月3日に公開された「調査報告書」は、日野がもはや会社の体をなしていないことを示す内容だった。
- 23年3月、豊田自動織機は、フォークリフト用エンジンの排ガス試験で不正発覚。それを受け行われた特別調査委員会の調査で、一部の自動車用エンジンにおいても法規違反が発覚したと24年1月29日、国土交通省などに報告した。
- 23年4月、ダイハツ工業は、側面衝突安全試験で不正発覚。12月に公表された報告書は、極めて「現場」に寄り添った秀逸な報告書だった。「不正行為に関与した担当者は、やむにやまれぬ状況に追い込まれて不正行為に及んだ、ごく普通の従業員である」というフレーズで始まり、こう締められていた。
「短期開発の強力なプレッシャーの中で追い込まれた従業員が不正行為に及んだものであり、不正行為に関与した従業員は、経営の犠牲になったといえ、強く非難することはできない。従って、本件問題でまずもって責められるべきは、不正行為をした現場の従業員ではなく、ダイハツの経営幹部である」(調査報告書、p114)。
このようにトヨタグループの不正の特徴は、会社側が「数字」だけを見て、「人の限界」を越える要求をし続けたことにあります。
奇しくも、豊田会長は記者会見で「主権を現場、商品に戻す」と強調していました。ダイハツ工業の第三者委員会が強く訴えた「責められるべきは、不正行為をした現場の従業員ではなく、ダイハツの経営幹部である」とのメッセージは十分伝わっているし、何よりもトヨタ会長自身が、世界のトヨタの階層最上階に立って見えたのが「経営幹部と現場の壁」だったのでしょう。
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