日本人は「労働の奴隷」? 働き損社会ニッポン、GDP4位転落の真因は……:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/3 ページ)
日本のGDPがついにドイツに抜かれ、4位に転落しました。GDPとは「一定期間内に国内で新たに生み出されたモノやサービスの付加価値の合計額」です。付加価値が生まれるのは「現場」ですから、GDPが低下しているということは、現場が弱体化しているということ。なぜ、働けど働けど日本の生産性は上がらないのでしょうか?
日本の生産性の低さ、仕事への熱意の低さの真因
OECD加盟諸国の統計では、主要13カ国の1994年と2018年の名目賃金上昇率は日本だけがマイナス4.54%です。四半世紀前と比べて、名目賃金は日本だけが減っているのですから、やる気も失せて当然です。
厚労省がOECDのデータをもとにG7の1991年と2020年の賃金を比較した分析でも、日本の低賃金ぶりは確認されています。名目賃金で米国2.8倍、英国2.7倍も伸びているのに、日本は1.1倍と30年間でほとんど変わっていません。
かたや日本国内の富裕層と超富裕層の割合は、「アベノミクス」が始まったあとの2013年以降増え続け、日本の超富裕層(純資産5000万米ドル超)は世界最大の伸び率を記録しているのですから、たまったもんじゃありません。
おまけに、所得の格差が大きいことを示す「ジニ係数」が、20代後半〜30代前半で高まっていることも分かりました。25〜29歳のジニ係数は、02年の0.240から17年には0.250に上昇し、30〜34歳も02年の0.311から17年は0.318に上がるなど、働き盛りの若い世代で所得格差が拡大していたのです(「日本経済2021-2022―成長と分配の好循環実現に向けて―」より)。
日本の生産性の低さ、仕事への熱意の低さの真因は、経営者がきちんと経営をしてこなかったことに尽きます。
経営とは「人の可能性を信じること」なのに、それをしなかった。「カネ」だけをみて、「これ以上けずるところがない!」と現場から悲鳴があがるほどコストカットを徹底し、長時間労働を常態化させてきました。
それでもまわらぬ現場を、安い労働力を増やすことで維持したのです。安い賃金で女性労働者を働かせ、外国人(主に技能実習生)をもっと安い賃金で酷使し、「それでも足りない!」と低賃金で雇用の調整弁としての非正規を増やし続けた。
繰り返し書いている通り、日本では「非正規は正社員より賃金が低い」が当たり前になっていますが、欧州では「非正規は正社員より高い」が当たり前です。「会社にインセンティブを与える」との理由から、有期=非正規雇用の賃金を割増するのです。また、EU諸国の中には「有期雇用」を禁止している国も少なくありません。
経営とは「人の可能性」を信じることであり、人の可能性を最大限に引き出すために会社は人に投資することなのに、残念ながら今の日本企業は「可能性という目に見えない力」ではなく、目に見える「カネ」だけを追い続けてきました。
今になって経済界は「賃金アップだ!」と騒ぎ立てていますが、この30年間「カネ」だけを追い続け、きちんと経営をしなかった末路が、現場の疲弊であり、生産性の低下であり、付加価値を生む力の弱体化なのです。
関連記事
- 賃金アップが相次いでも、見捨てられる「中小企業と40歳以上」の悲哀
賃金アップのニュースが相次いで報じられている。しかし、その背景について調べると、手放しに喜べない日本の現実が見えてくる。 - 「初動が遅い」「企業は金を取るな」――震災対応への批判から見る、日本のGDPが上がらないワケ
元日に石川県能登地方を襲った最大震度7の大地震は、能登半島を中心に深刻な被害をもたらした。震災の対応に対し「初動が遅い、小規模だ」「企業は金を取るな」――といった意見が散見されるが、こうした「お客様マインド」ともいうべき態度がめぐりめぐって日本の生産性を下げてしまっているのではないか。どういうことかというと……。 - “学びたくない”日本人 2000億円の投資で「給料が上がる仕組み」は作れるか?
政府がリスキリング(学び直し)支援に熱心だ。厚生労働省は2024年度の概算要求でリスキリングなどに2000億円を盛り込んだと発表した。狙いは「三位一体の労働市場改革」を実現し、賃金が上がる仕組みを作ることにある。こうした政府の取り組みに勝算はあるのか? リスキリングが浸透している実感が持てないのはなぜなのか? 人事ジャーナリストの溝上憲文氏が解説する。 - 携帯ショップに警備会社──不人気業種でも「人が集まり辞めない」企業がある その秘密は?
人手不足が深刻化している。そんな中、不人気な業種でも独自の企業努力によって好業績を維持し、エンゲージメントを高め、採用や育成に成功している企業がある。では、それらの企業では具体的にどのような取り組みをしているのだろうか。携帯ショップや警備会社の事例を紹介する。 - あまりに「日本企業あるある」だ──ダイハツ不正の背景にある病理を読み解く
ダイハツ工業で、自動車の安全性確認試験での不正行為があったことが明らかになった。「第三者委員会による調査報告書」には、同社の組織風土や職場環境における問題点が生々しく記されている。本件から、日本企業にはびこる病理を読み解く。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.