日本人は「労働の奴隷」? 働き損社会ニッポン、GDP4位転落の真因は……:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/3 ページ)
日本のGDPがついにドイツに抜かれ、4位に転落しました。GDPとは「一定期間内に国内で新たに生み出されたモノやサービスの付加価値の合計額」です。付加価値が生まれるのは「現場」ですから、GDPが低下しているということは、現場が弱体化しているということ。なぜ、働けど働けど日本の生産性は上がらないのでしょうか?
いつから「労働の奴隷」になってしまったのか?
そもそも「働く」という行為には、「潜在的影響」(latent consequences)と呼ばれる、経済的利点以外のものが存在します。
潜在的影響とは、自律性、能力発揮の機会、自由裁量権、他人との接触、他人を敬う気持ち、他者からの承認、身体および精神的活動、1日の時間配分、生活の安定など。この潜在的影響こそが心を元気にし、人に生きる力を与えるリソースになります。
ところが今の日本の職場では、潜在的影響がリソースとして機能していません。
能力を発揮する機会もなければ、自由に決める権利(自由裁量権)もない。他者から認められることもなければ、敬意を示されることもめっきり少なくなりました。
人は幸せになるために働くのに、働けど働けど幸せになれない。「しんどいし、つらいこともたくさんあるよ。でもね、やった! って思う瞬間があるんだよ。やっぱ働くっていいよね」と思えることが、「働く」という行為なのに。
仕事への熱意は「自分の存在を認めてくれる」環境があってこそ生まれる感情なのに、それらの経験ができず、ただ「労働の奴隷」として扱われているようになってしまったのです。
私たちは本来、頑張ったら、ちゃんと評価されなくてはいけないのに、いつからか私たちは「働き損社会」の慣れっこになってしまったように思えてなりません。
経済界のお偉い人たちは、「GDP4位転落」という現実の真因、すなわち「人の可能性を信じ、可能性を最大限に引き出すために会社は投資する」という経営の基本に戻っていただきたいと心から願います。
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(プレジデント社)、『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか - 中年以降のキャリア論 -』(ワニブックスPLUS新書)がある。
2024年1月11日、新刊『働かないニッポン』発売。
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