転勤3カ月で、直後より手取り減──“社会保険料のワナ”に要注意 回避する方法は?:社労士・井口克己の労務Q&A(2/2 ページ)
【A】数カ月前に転勤した従業員から「一時は異動して残業代が増えたが、3カ月で突然手取り収入が下がってしまった。何か計算が間違っていませんか?」と質問されました。同じ時期に転勤し、同じくらい残業している同期のBさんと比較すると、控除額に1万円以上の差が突然発生したことに気付き、疑問を抱いたようです。
通勤手当の変更タイミングで工夫できる
同じように働いていて手取りが1万円近く変わってしまうと、社員の納得は得づらいでしょう。これを回避する方法について考えてみます。
通勤手当の変更が発生する月と時間外手当が増加する月を変えると、このような事象の発生確率を抑えられます。
上記の例では、異動した翌月に通勤手当が変更されましたが、転勤の前月から通勤手当を変更するとどうなるかを確認してみます。
随時改定の判定に当てはめると、通勤手当に変更のあった9〜11月の給与が見直しの基礎となる金額となります。この3カ月間の平均給与は28万3333円となります。
標準報酬月額表に当てはめると、標準報酬月額は28万円となります。従前の26万円から1段階の上昇のため、随時改定の対象とはなりません。そのため12月以降も社会保険料は従前のままとなります。
このように随時改定の特性を理解した上で通勤手当を変更すると、社会保険料の変動が起きにくくなります。同じ給与を支払うなら本人の手取りが少しでも増えるように調整できると、転勤を伴う人事異動も円滑に実施できます。
著者プロフィール
井口克己(いぐちかつみ) 株式会社Works Human Intelligence WHI総研フェロー
神戸大学経営学部卒、(株)朝日新聞社に入社し人事、労務、福利厚生、採用の実務に従事。(株)ワークスアプリケーションズに転職しシステムコンサルタントとして大手企業のHRシステムの構築・運用設計に携わる。給与計算、勤怠管理、人事評価、賞与計算、社会保険、年末調整、福利厚生などの制度間の連携を重視したシステム構築を行う。また、都道府県、市町村の人事給与システムの構築にも従事し、民間企業、公務員双方の人事給与制度に精通している。現在は地方公共団体向けのクラウドサービス(COL)の提案営業、導入支援活動に従事している。その傍ら特定社会保険労務士の資格を生かし法改正の解説や労務相談Q&Aの執筆を行っている。
株式会社Works Human Intelligence
人事管理、給与計算、勤怠管理、タレントマネジメントなど人事にまつわる業務領域をカバーする大手法人向け統合人事システム「COMPANY」の開発・販売・サポートを行うほか、HR関連サービスを提供している。COMPANYは、約1200法人グループへの導入実績を持つ。
全てのビジネスパーソンが情熱と貢献意欲を持って「はたらく」を楽しむ社会の実現を目指す。
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