「日の丸半導体」栄光は復活するのか “TSMCバブル”の落とし穴:スピン経済の歩き方(6/6 ページ)
TSMC熊本工場の開所が「日の丸半導体復活」につながるとの見方もあるが、実際はどうなのか。かつて「半導体立国」を掲げたマレーシアの現状を見てみると……。
日の丸半導体は「何をもってして復活なのか」
歴史ということでもう1つ言えば、80年代から日本政府や経産省が行った政策で、日本半導体産業のシェアの向上に奏功したものは1つもない。エルピーダメモリの破たんなど、巨額の税金を投入して死屍累々の結果だった。
報道を見ていると、日の丸半導体関連のニュースには「雪辱戦」「リベンジ」「最後の賭け」など精神論も増えてきた。これは「やめ時」を逃して「出口戦略」が描けずに自滅した太平洋戦争から克服できていない日本型組織の「王道の負けパターン」だ。
多くの専門家が指摘しているが、日本政府は「日の丸半導体復活」というわりに、「何をもってして復活なのか」を定義付けていない。市場や競争環境も変わっているので、80年代の状態に戻るなんてことはあり得ない。
世界的にも強い「材料」に特化してシェア拡大を目指すことなのか、それとも全体的に売り上げを拡大することなのか。生産体制を強化することなのか、それとも世界に通用する高度な技術者を多く育成することなのか。……などなど、具体的なゴールと数値目標を定めないまま「復活」を叫んでいる。第2次世界大戦中に大政翼賛会が掲げたスローガン「進め1億火の玉だ」とそれほど変わらないノリの精神主義だ。とにかく「復活」を叫んでいる感じだ。
バブルだ、日の丸復活だ、という感じで「戦意高揚」するのも結構だが、どこに戦力を集中させて何をもってして「勝利」とするのかを決め、そこから逆算した具体的な戦略を立てない限り、今回の半導体戦争もまた惨敗してしまうのではないか。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。窪田順生のYouTube『地下メンタリーチャンネル』
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受
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