仕事中の「おやつの時間」は後ろめたい――“ムダ”を削るばかりの日本が失っているもの:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/3 ページ)
「仕事中におやつ時間」「ちょっとコーヒー」といった気分転換に対して、後ろめたいものと思う人は少なくない。しかし、無駄話、無駄な時間、無駄な空間は本当に削ってしまっていいものなのだろうか? 健康経営学者の河合薫氏が考察する。
“無駄”が失われ続けた30年
日本が欧米以外の国として唯一、工業化を達成し、経済力で欧米諸国に肩を並べられたのは、日本製品が「メード・イン・ジャパン」としてブランド化していったからに他なりません。その「ものづくり国ニッポン」の土台にあったのが、江戸時代から引き継がれた「ものづくり」へのこだわりと、創意工夫や勤勉さと、会社として一致団結する力です。
ところが、バブル崩壊以降、日本の職場は「これ以上削れるものがない!」と悲鳴をあげるほど無駄を徹底的に削減し、「これ以上時間内に終わらせるのは無理!」と泣きたくなるほど仕事量を増やしました。経営者たちは「もっと! もっと!」と業績目標を引き上げ、イノベーションサイクルの短縮化を進め、新しい経営技術や組織システムの導入を急ぎました。
その末路が過労死であり、過労自殺であり、うつなどの精神疾患による求職者・離職者の増加であり、技術力の低下です。
本当の“無駄”とは何なのか? 削ってはいけない“無駄”があるのではないか?
その問いを置き去りにしたまま「コスト削減=無駄をなくすこと」と勘違いしたことが、現場を疲弊させたのです。
「最近やたらと、ものづくりニッポンとか何とか言うでしょ? あれって、幻想だと思うんです。今の現場で新しいものなんて生まれない。ものづくり幻想を現場に押しつけるのは、勘弁してほしいです」――これは今から12年ほど前にインタビューした、某大手企業の社員の言葉です。
当時、パナソニック、ソニー、シャープ、NECなど、日本のものづくりをリードしてきた電機メーカーが経営危機に陥ったことで、メディアでは連日「ものづくりニッポン」「ものづくりの力の再強化こそが日本が生き残る道」などと、ものづくり力が救世主のように扱われていました。
そんな中、私が製造業に勤める現場の社員50人にヒアリングしたところ、耳にしたのが「そんなの無理!」という悲鳴だったのです。
前述の大手社員は、さらにこのように話しました。
「現場の人間にもプライドがありますから、意地でも結果を出そうとするわけです。かなりの短期間で結果を求められますから、どうしたって精神的にも肉体的にもギリギリになる。会社はメンタルを低下させる社員が出るたびに、コミュニケーションをもっと密にしろと言います。ですが、時間的余裕のない職場で、どうやってコミュニケーションを増やせと言うのでしょうか。
それに新しい発想って、仕事の合間に『ちょっとこれやってみようかなぁ』なんて、自分で遊んでいるうちに出てきたり、仲間たちとワイワイたわいのない話をしている時に浮かんだりするもの。その小さな発見が仕事のやりがいにもつながるんです。遊びが失われた今の現場は、メンタルを低下させる社員が後を絶ちません。今の日本企業は負の連鎖に入り込んでいる。私にはそう思えてなりません」
こう男性が指摘するとおり、一見 “無駄な時間”に思えるものは、人間の創造性を育み、「ソーシャル・キャピタル」を豊かにする大切な時間です。
ソーシャル・キャピタル=社員同士のつながりは、企業に内在する「目に見えない力」です。
人と人のつながりに対する投資がリターンを生み出す点を強調するために、「キャピタル=資本」という言葉が使われています。その根底には、人と人のつながりを大切にすることは経営にプラスの影響を及ぼすという考え方があります。
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