今さら聞けない「物流2024年問題」のウラ側 根本解決はできるのか?:働き方の「今」を知る(3/3 ページ)
さまざまなメディアで「2024年問題」が取り沙汰されている。その中でも消費者の生活に大きくかかわる物流・運送業界の現状と法改正における課題について、解説。根本解決への道を考察する。
便利な生活のウラ側 根本解決はできるのか?
政府によると、物流分野で十分な対策が講じられない場合、24年度に輸送能力が14%、30年度には34%不足すると推計されている。とはいえ、単に労働時間を規制し、高速道路の制限速度を引き上げるだけではあまりに表層的な対症療法と言わざるを得ない。では、業界に根深い長時間労働が改善されない原因は何なのだろうか。
厚生労働省の調査によると、トラックドライバーにおいて長時間労働がまん延し、改正法を順守することが困難な理由として次のような項目が挙げられている。
- 着(発)荷主で荷待ち時間が発生する
- 納品までのリードタイムや時間指定などの条件が厳しい
- 積込みや荷卸しが手荷役で、作業時間が長時間となる
- 荷主からのオーダーに合わせた効率的な配送計画が作れていない
このような点から根本解決を図らないことには、業界の長時間労働傾向と人手不足は変わらないであろう。
実際、運送業において早期から2024年問題に対策を取った企業では、次のような施策を実施し、残業時間や待機時間、工数の削減につながっている。
- 荷出し、荷受けの予約受付システム導入
- 荷主からの入出荷情報の事前提供による準備早期化
- バラ積み貨物のパレット化、発・着荷主と運送会社との間で同一パレットを共同利用化
- 集荷と幹線輸送のドライバー分離、集荷先や配送先の集約による拘束時間削減
- 運転以外の付帯業務(検品、仕分け、積込、納品など)切り離し
- 出荷順や出荷時の荷姿を考慮した製造や荷置き
- 発・着荷主の協力により、出荷時刻を定時化すると共に着時間に幅を持たせ、安定輸送確保
- 着側の処理能力に合わせた出荷側のトラック台数コントロール
- モーダルシフトと、鉄道ダイヤに合わせた出荷時刻厳守
課題と解決策を見る限り、運送会社単体で対策をとることには限界がある。運送会社に依頼する荷主側も巻き込んだ形で協力体制を築き、双方が仕事をしやすい環境を整備することが重要だ。
そして適正価格と適正納期で運送を依頼し、滞りない流通を実現するためにも、最終製品への価格転嫁や消費者への理解促進も含めた抜本的な対策が求められるところだ。
なお、物流・運送業の中でも「バス業界」の工夫については、別記事「60歳の消防士がバス運転手に? 「2024年問題」で存続が危ないバス業界、救いの一手はあるか」にて紹介している。
記事の後編(5月9日公開予定)では建設業界について考察していく。
著者プロフィール・新田龍(にったりょう)
働き方改革総合研究所株式会社 代表取締役
早稲田大学卒業後、複数の上場企業で事業企画、営業管理職、コンサルタント、人事採用担当職などを歴任。2007年、働き方改革総合研究所株式会社設立。「労働環境改善による業績および従業員エンゲージメント向上支援」「ビジネスと労務関連のトラブル解決支援」「炎上予防とレピュテーション改善支援」を手掛ける。各種メディアで労働問題、ハラスメント、炎上トラブルについてコメント。厚生労働省ハラスメント対策企画委員。
著書に『ワタミの失敗〜「善意の会社」がブラック企業と呼ばれた構造』(KADOKAWA)、『問題社員の正しい辞めさせ方』(リチェンジ)他多数。最新刊『炎上回避マニュアル』(徳間書店)、最新監修書『令和版 新社会人が本当に知りたいビジネスマナー大全』(KADOKAWA)発売中。
11月22日に新刊『「部下の気持ちがわからない」と思ったら読む本』(ハーパーコリンズ・ジャパン)発売。
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