公益通報者が自殺――不正を暴く人が守られない「法の抜け穴」の深刻な大きさ:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(1/3 ページ)
和歌山市で公金の不正支出を公益通報した職員が、その件で処分された職員と同じフロアで勤務をさせられたのち、自殺をしてしまう痛ましい事件が起こった。公益通報者は本来、公益通報者保護法で守られるはずだが「法の抜け穴」は深刻なほど大きい。不正を暴く人を守れない日本社会の問題点に迫る。
「組織の不正をストップ! 従業員と企業を守る『内部通報制度』を活用しよう」――今年2月、「政府広報オンライン」にこのような見出しの記事が掲載されました。
記事が一貫して主張したのは「あなた(=通報者)を守る法律があるから大丈夫! あなたが不利な扱いを受けないように、ちゃんと国が決めてあるから安心して通報してね!」という、従業員たちへの呼びかけでした。
しかし、本当に「勇気を出して声をあげた通報者」を法律は守ってくれているのでしょうか。
あるいは、件のWebサイトでは、経営者に「内部通報制度を利用して、企業や従業員を守りましょう!」と呼びかけていますが、企業は本当に従業員を守ってくれるのでしょうか。
はたまた、“長いものにまかれろ!”こそが最良の処世術ともいえる日本企業で、「法律がある」というだけで人事上の不利益を防ぐことなど本当に、本当にできるのでしょうか。
……難しい、と私は思います。その理由を詳しくお話しする前に、4年前に内部告発をした男性が命を絶ったとされる事件を取り上げます。
市職員の自殺 自身の公益通報で処分された人と“毎日顔を合わせていた”
2018年、和歌山市の男性職員は地域の子ども会に補助金を支出する業務に関して「子ども会側が補助金を得られるように、架空の活動内容の書類を作るよう上司から依頼され、(そのストレスから)心身に不調があらわれるようになった」と訴えて休職。市の内部通報窓口に内部告発をしました。
その後、男性職員は復職したものの、告発で処分された職員と同じフロアで働くのを余儀なくされた末、2020年6月に自殺したのです。
家族は男性の死が業務上のストレス(人事上の不利な異動)が原因だったなどとして、地方公務員災害補償基金県支部に、公務災害を申請しました。しかし、支部側は2024年1月に請求を棄却。「(両者が)業務で直接関わることもなく、職場関係者から嫌がらせがあったという証言もなかった」というのが理由です。
一方、家族側は5月13日付で不服を申し立て、14日には弁護士などが作る支援団体が記者会見を開き、公益通報者が守られていなかった疑いがあるとして、市に対し、第三者委員会を設置して経緯を調査するよう求めました。
これに対し、和歌山市の人事課側は「同じフロアにいた処分された職員は別の課であり、不適切な人事配置ではなかったと考えている」とコメントしています。
本件については、報道されている以上のことは分かりません。しかし、男性の告発により15人もの職員が処分され、男性は復職後に処分された人と毎日顔を合わせる可能性がある職場に配属になったことは紛れもない事実です。それがストレスを感じる大きな要因なったと考えるのは至極妥当でしょう。
和歌山市側は「公益通報者の秘密も守られるよう適正に配慮していた」としていますが、何を根拠にそう言い切れるのか。その点も含めて、第三者委員会を設置し、調査を行う必要があると思うのです。
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