全て「管理職のせい」なのか? 昭和おじさん社会が抱える、ある問題点:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(1/3 ページ)
「マネジメントスキルが低下している」「従来のマネジメントでは成果が上がらない」――日本の企業が思うように伸びない一因として、管理職の問題が言及されることが多い。企業も管理職の育成に課題を感じているようだ。しかしその一方で、全て「管理職のせい」と考えると見落としてしまう重大な問題点がある。それは何かと言うと……。
現場一流、経営三流――。
これは1990年代後半、製造業を研究フィールドにする経済学者や経営学者たちが好んで使った言葉です。そして「それは今も続いている」と痛感した調査結果が2つ公表されました。
日本の課題が「管理職のせい」にばかりされている
1つ目は「管理職問題」です。
リクルートが企業で働く人事担当者を対象に「管理職・ミドルマネジメント」についてアンケートを実施したところ、44.3%の企業が、管理職について、制度を変えたり、従来のやり方を見直したりする必要性を感じていることが分かりました。
理由のトップは「管理職のマネジメントスキルが低下しているため」(56.5%)。次いで「従来のマネジメントスキルややり方では成果が上がらなくなっているため」(46.6%)、 「従業員が多様化しているため」(41.0%)でした。
また、管理職の課題については「部下の人材育成」(36.9%)が最も多く、「部下のモチベーション向上」 (35.6%) 、「若手社員への指導・育成」 (32.5%)と続き、管理職の部下や若手社員の人材育成について課題に感じている企業が多いことが分かったそうです。
2つ目は、HR総研が「将来的に経営や事業・職能部門のトップを担う次期経営幹部候補=次世代リーダーの育成」に関して実施したアンケート結果です。
85%の企業が「次世代リーダー育成が重要(重要+やや重要)」とし、大企業(従業員数1001人以上)の7割超がすでに取り組んでいるのに対し、中堅企業(301〜1000人)では5割を下回っていました。
「次世代リーダー育成のターゲットにしているポジション」については「部門長」が最多で71%、次いで「執行役員・事業責任者」が36%。「次世代リーダー育成対象者の現在の役職」については、「課長クラス」が最多で78%、次いで「部長クラス」と「係長クラス」がともに50%。一方、「社長やCxOをターゲットとする」との回答は1割前後、育成対象者が現在「本部長・役員クラス」との回答は18%にとどまっていました。
つまり、ほとんどの企業の関心は「管理職の育成」と推察できる結果が出ていたのです。
これらの2つの調査は実施した団体も別々ですし、用いている言葉も異なります(管理職と次世代リーダー)。しかし、結果はほぼ同じ。
リクルートの調査では「最近の管理職は部下を育てたり、モチベーション上げたりするのが下手。時代も変わったし、なんとかしなきゃだね?」と頭を抱え、HR総研の調査では「課長を育てて、使える部門長に育てるぞ!」と意気込んでいる。どちらも管理職に問題があり、管理職を育てる必要がある、と。
管理職と経営層教育の問題はずっと指摘されているのに、問題意識は多忙な「管理職」にだけに向いている。本来は、社長も含めた経営層の教育も必要なのに、そのポジションへの問題意識が著しく欠けていると解釈できる結果が出てしまったのです。
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