物流で守るべき「一対一の原則」とは? 工場物流は「回収作業」を通して生産統制を実行せよ:仙石惠一の物流改革論(1/2 ページ)
工場内での回収作業において厳守したい「一対一の原則」とは――。
連載:仙石惠一の物流改革論
物流業界における「2024年問題」が顕在化している。この問題を克服するためには物流業の生産性向上以外の道はない。ロジスティクス・コンサルタントの仙石惠一が、運送業はもちろん、間接的に物流に携わる読者に向けて基本からノウハウを解説する。
工場物流作業の中でも比較的、目にとまりにくい作業に「回収作業」がある。この回収作業とは、その名の通り生産ラインからいろいろなものを回収する作業のことを指す。
生産ラインに対して資材や部品、完成品容器や生産指示情報などを届けることを血管になぞらえて「動脈物流」と呼ぶ。一方で、回収作業は「静脈物流」と呼ばれている。工場の外では不良品を回収したり、空になった通箱を回収したりすることを回収物流という。工場の中では生産ラインで生産された完成品や空になった通箱、生産過程で発生した廃棄物などを回収する作業のことである。
このように、回収作業は効率的なものづくりを支える大切な役割であるにもかかわらず、あまり注目されていないのが実情である。生産ラインで出来上がったもの、不要になったものはタイムリーにその場から撤去しなければ生産工程が詰まった状態になってしまう。そこで、物流担当者がそれを回避するための作業を行う必要があるのだ。
完成品引き取り作業で生産をコントロールせよ
前回の連載記事「物流現場は『宝の山』 生産効率を最大化する供給改善法とは」では、供給作業を通じて生産コントロールを行うという話を紹介した。生産ラインに必要な数量の部品などをギリギリのタイミングで届けることで生産秩序を保ち、つくりすぎのムダをなくそうという試みである。
これは物流が計画通りの生産に必要な資材を届けることで生産を制御することから「入口統制」と呼ばれる。入口とは生産工程の入口、すなわち部品などを供給する場所のことだ。
一方、完成品引き取りで生産を制御することを「出口統制」と呼ぶ。出口とは生産工程から完成品が出てくるところのことを指す。出口統制の基本的な考え方は以下の通りである。
- 原則として生産に必要な部品などの供給数規制は行わなくてもよい
- 原則として完成品容器も供給数は規制しなくてもよい
- ただし完成品は計画通りの数のみ引き取る
つまり供給作業では細かなコントロールを行わず、生産工程の出口だけで秩序を保とうとする考え方である。今必要な分(生産計画分)だけしか引き取らないため、生産ラインサイドのエリアには完成品を置ききれなくなり、結果的につくりすぎが規制されるというわけである。
この回収作業で生産コントロールを行うことで、(決して望ましいことではないが)次のような物流が可能となる。
- 部品などの供給時に必要数をピッキングする必要がない
- したがって納入荷姿のまま生産ラインに供給ができる
- 完成品容器も一定の数量をまとめてラインに供給できる
本来であれば、工場内物流は最初に「サービス業としての役割」を果たさなければならない。しかし、上記の方式であれば「生産をコントロールする」という第二の役割は果たしていることになる。工場内物流改善の終着点ではなく、その途上としての位置づけであればこの方式は許される範囲と言えるだろう。
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