データ活用、接客 韓国のIR「インスパイア」に見る“LTV向上の要点”とは(2/3 ページ)
投資額2200億円、敷地面積430万平方メートルと広大な韓国の統合型リゾート「インスパイア」。客に何度も訪れたいと思わせる施設をいかにして作り出し、顧客生涯価値(LTV)を高めているのか。インスパイア・エンターテインメント・リゾートのCMOに聞いた。
CMO自らリゾート内を歩き回る
消費者は時に、非常に難しいリクエストをすることがある。
「求められていることを満たす努力を続けますが、全員を満足させることは困難です。それとは別に、従業員の現場での接客力によって差が出ると見ています。データの活用以外では、社員は顧客がどのようにリゾートを楽しんでいるかを実際に見て、1対1での対応をした時の反応を知り、常に質の高い接客を維持することが肝要です。顧客データと接客について、うまくバランスをとり、良いリゾート体験を作り上げていこうと考えています」
確かにどれだけ素晴らしい施設でも、従業員の対応が悪ければ、常連客になってはもらえない。例えば、ショッピングモールやデパート内にある店舗の雇用形態には、直接雇用している場合と、テナント側から派遣されたスタッフの場合の2種類がある。インスパイアが直接雇用した社員教育以上に、派遣スタッフへの社員教育はハードルが高い。いかにして質の高いサービスを標準化するのか。
「インスパイアの社員でなくとも、施設で働いている以上、私どものブランドやサービスの基準を担う方々です。もちろん彼らのサービス基準もあり、それを守る必要性もあるので、私たちのサービス基準を共有し、両者で力を合わせる必要があります」
客の声にどれだけ耳を傾けるのか。企業の幹部レベルになると、現場に出る人と、そうでない人の2つに分かれる印象がある。
「普段はオフィスにいますが、私はリゾート内を歩き回るタイプだと思っています。皆の反応を見ることは重要です。時には顧客と会話して感想を聞くことによって改善点を見いだすことができるからです。改善できる事柄は常に存在しているので、それを実行していくのが私の使命です」
客を楽しませるイノベーションを起こすにはアイデアが必要だ。ただアイデア出しだけなら、多くの企業が問題なくできる。課題は、それを実際に具現化できるかどうかだ。それにはその企業の社風が大きく影響する。
「企業風土の醸成には、非常に時間をかけています。モヒガンには『The Spirit of Aquai』という精神があります。これはいくつかの柱があり、代表的なのは協力、関係構築、相互尊重です。社内でも上下関係を気にせず、意見を言ってもらうことが基本です。インスパイアは韓国にありながらも、モヒガンの米国的な企業文化の価値観をバックボーンにしています」
韓国は日本以上に儒教文化が強く、年齢による上下関係も厳しい。そこをジェンセンCMOは理解しているようだ。年齢層が比較的若いこともインスパイアを支える社員の特長として挙げられる。企業全体として若手を育てる責任を担っていて、エクゼクティブ層も一丸となって育成に取り組む。
「韓国のローカル文化を尊重しつつも、どんな社員でも輝く機会を提供することにより、良いアイデアが生まれ、それが良い商品となり、最高のCXに変化していくと思います」
イベント開催時はバスを増便 混乱を防ぐ
ジェンセンCMOは前回のインタビューで、コンサート会場である「インスパイア・アリーナ」が、オーロラ同様にゲームチェンジャーになる可能性のある施設だと答えた。米ロックバンド、マルーン5のコンサートや卓球のWTTチャンピオンズを開催し、アリーナの稼働率は順調に推移しているようだ。
「6月15〜16日には(K-POPで有名な)HYBEによる『2024 Weverse Con Festival』が、ディスカバリーパークを使った初めてのイベントを開催する予定で、アリーナも活用します。韓国でも海外からも、注目に値する施設という定評が固まっていて、年末までのスケジュールもほぼ埋まっています」
インスパイアへのアクセスについては、近くに地下鉄駅などがない。大型イベント終了後は、大勢の人が一斉に会場から離れるため、スムーズに帰れるかどうかは重要だ。もし帰りに大きな混乱が起きれば、アーティストとしては次回以降、アリーナを使いづらくなる。そうなるとCXへの影響も避けられない。幸い、今まで大きな問題は発生していないという。
「交通面は当初から心配していました。車で来る人は、駐車場に自由に止めさせるのではなくスタッフが誘導し、満車になってから次のブロックに駐車させるようにしています。インスパイアは駐車場も広大なので、どこに車を停めたかを覚えるのが大変です。そこで客が帰る際に、リゾート各所のキオスクで車番を入力し、駐車位置を確認できるようにして、駐車している車を追跡できるようにもしています」
駐車している車を追跡できるのは、日本では見かけないユニークな取り組みだ。
「シャトルバスは仁川国際空港にある駅が、最も近い乗り場です。普段からバスを運行していて、ショーのある日は増便して平均20〜30便を運行するようにしました。インスパイアの増便もありますが、旅行会社などにも協力いただき、交通付きのエンタメパッケージプランといった旅行商品がどんどん完成してきています」
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