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タクシーは3時間待ち──地方の深刻な人手不足は「むしろ勝機」 地銀9行が手を組み、何を仕掛けるのか

人手不足にあえぐ地方の中小企業を、ベンチャーとのマッチングで好転させられないか──。UB Venturesと地方銀行9行は7月3日、「地域課題解決DXコンソーシアム」を発足した。どのような取り組みを進めていくのだろうか。

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 レストランで注文しても、料理の提供まで1時間かかる。タクシーに乗ろうにも、当日の呼び出しでは3時間待ちを覚悟しなければならない。いずれも深刻な人手不足によるものだ。ベンチャーキャピタル(以下、VC)のUB Ventures(東京都千代田区)で代表を務める岩澤脩氏が地方都市で実際に経験した実話である。

 こうした状況にあえぐ地方の中小企業を、ベンチャーとのマッチングで好転させられないか──。UB Venturesと地方銀行9行は7月3日、「地域課題解決DXコンソーシアム」を発足した。人材不足が深刻な地方企業の生産性向上を手掛けるスタートアップの情報を集約し、連携を図るという。具体的には、どのような取り組みを進めていくのだろうか。

地銀とVCで地方に「スタートアップの力」を──どんな取り組み?

 コンソーシアムの取り組み内容は主に3つだ。まずは3カ月ごとの定例会でその都度テーマを設定し、各地域の産業別の課題を調査・分析する。次に、国内で空洞化が問題となっている30の産業に対し、課題解決の手法を持つスタートアップを3〜5社ずつリストアップ。そして、実際に解決に向けた取り組みを推進していくため、成功事例の収集を行う。地域横断で知見を共有し、地理的・心理的にハードルが高いスタートアップと地方中小企業との連携を進めていく。

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画像はUB Ventures提供

 取り組みの期間は2年間。その後については未定だというが、「9行の皆さまとモデルケースを作り、第一地銀のみならず第二地銀、信用金庫に拡大できれば」(岩澤氏)としている。

地方で目の当たりにした、想像以上の人手不足

 岩澤氏は、約1年前からコンソーシアムの発足に向けて準備。全国各地の50の地域金融機関を回った。

 “地方行脚”をする中「東京に住んでいると、想定すらしない」(岩澤氏)ような形で、地方の人手不足を実感する機会があったという。例えば、ある空港でレストランに入ったところ、キッチンの人手不足で注文から提供までに1時間を要することを知らされた。この日に限った話ではなく、この状態が恒常化している様子だった。

 また、地域の主要ターミナル駅の前にタクシーがいないのは当たり前。のみならず、宿泊したホテルで「タクシーを当日オーダーすると、3時間待ちになる」とアナウンスを受けることもあった。

 こうした現状に多くの地方金融機関が危機感を抱いているが、岩澤氏は訪問を重ねる中で、金融機関の二分化を実感した。地域経済に取り組もうとするあまりに地域に閉ざしていってしまうか、越境志向で課題解決を図るかだ。横断的な取り組みに賛同した鹿児島銀行、佐賀銀行、山陰合同銀行、四国銀行、静岡銀行、常陽銀行、中国銀行、福岡銀行、山口銀行の9行と立ち上げに漕ぎ着けた。

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UB Venturesのプレスリリースより

 鹿児島銀行の小笹康浩氏(執行役員 地域支援部長)は「地域金融機関として地域企業の支援をする中で、(企業の)悩みの中心は資金から、労働力不足になってきた」と指摘する。「銀行の立場でテクノロジーを持つスタートアップと知り合う機会はあるものの『点』にとどまっていた。これを『面』にしていきたい」(小笹氏)

 人材不足の深刻化で、企業内で不足する人材のレイヤーに変化が生じていると、四国銀行の川崎隆二氏(地域イノベーション部長、「崎」は「たつさき」)は話す。長年「後継者不足を解決すれば事業を継続できる」と事業承継に取り組んきたが「昨今は様相が変わり、従業者がいない。地元(の経営者同士)で(人材を)紹介し合うような取り組みも存在はするものの、地域経済を「面」で見ている地銀にとっては「何の解決にもならない」(川崎氏)

 こうした課題に向き合う中で、コンソーシアムへの参画を通じて「他金融機関がどういった課題解決をしているのか分かる」と期待を寄せるのは、常陽銀行の小野瀬真一氏(執行役員 経営企画部長)だ。茨城県を中心に展開する同行は、つくば発のスタートアップと接点を持つことはあっても、その拡大が課題になっていた。「銀行にはない先進的なノウハウを持つスタートアップとの連携は不可欠」と捉えている。

人口減少先進国ニッポン だからこそできる挑戦

 スタートアップには今、多くの資金が流れ込んできている。2022年に発表された「スタートアップ育成5か年計画」は、時価総額1000億円超の未上場企業を指す「ユニコーン企業」を100社に拡大することを掲げる。一方で岩澤氏は、スタートアップ投資に従事する中で、ある違和感を抱いていたという。

 「ユニコーンと言いつつ、欧米のタイムマシン的なビジネスモデルだ。これも大事なことではあるが、外国にフィーを払い続けるビジネスモデルが既定路線になってしまっている。世界で勝てるような産業が、日本から生まれにくい。

 起業家の皆さんと議論する中で『今、世界中で日本にしか見えていない課題』にディープダイブすることが、実は世界にチャレンジする一番の近道なのではないかと考えた」(岩澤氏)

 多くの先進国が少子高齢化に伴う労働力不足の課題を“時限爆弾”的に抱える中、日本発のスタートアップが省人化による生産性向上の手法を確立し、世界の需要に先駆けていく。そんなビジョンを掲げる。

 労働市場に詳しいリクルートワークス研究所の古屋星斗氏は、生産性向上のための省人化産業には、設備投資を牽(けん)引する人材が不可欠と指摘する。DXのためのテクノロジーを、課題を抱える現場にいわば“輸入”するようなやり方では、改善どころか混乱につながりかねない。現場が学び直して導入する、または外部人材が現場に深く入り込んで導入するといった対応が必要だ。

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リクルートワークス研究所 主任研究員の古屋星斗氏

 「そうした人材の採用数は10年で3倍に増加するという結果もあり、非常に大きなニーズが存在する。地銀が見聞きする現場の課題と、『どんな技術を活用できそうか』という情報のどちらも分かる人材が必要になってくる。

 地銀側が学び直しをしてそうした人材配置を実現する、あるいはVC側が用意するといった役割が求められてくる」(古屋氏)

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