OMO時代の書店革命 Amazon Booksの挑戦とコミュニティ型書店の躍進:がっかりしないDX 小売業の新時代(3/3 ページ)
Amazonが新たな顧客体験価値の提供に向けて重ねてきた数々の試行錯誤は、いま、米国や日本の書店業界で起こる新たなムーブメントにつながっている。Amazonの挑戦と失敗から得られた教訓にフォーカスし、書店業界の今後を考えてみたい。
注目が集まるシェア型書店
独立系書店同様にシェア型書店も注目を集めています。
シェア型書店(共同書店)とは、本棚ごとにオーナーがついて共同で本を売る書店のことです。月額数千円から誰でも「本屋」になることができ、新書・古書を問わず出品できるのです。開店・営業に伴うリスクが低いのが特徴です。
選書を通して来店者に読んでほしい本を届け、メッセージを伝えることができる点は独立系書店と同様です。
シェア型書店の代表的な例としては、2022年3月に本の街、東京・神保町にオープンした「PASSAGE」が挙げられます。書評アーカイブサイト「ALL REVIEWS」のつながりを生かした個性豊かな選書棚が支持を集め、人気店となっています。
PASSAGEに実際に行ってみると、個人が自分の好きな本を薦める棚もありましたが、作家が自らの著書や推薦する他の作者の本を並べている棚が目立ちました。
筆者は俵万智さんのサイン入り詩集を買いました。詩集を買ったのは初めてです。こういう出会いはネット書店のレコメンデーションでは起き得ないことです。
PASSAGEは好調で2024年3月には、同じく神保町に3号店の「SOLIDA」が開店しました。
2024年4月末には、直木賞作家の今村翔吾氏がシェア型書店「ほんまる」を神保町に開店しています。クリエイティブディレクターの佐藤可士和氏がブランディングを担当し、店舗デザインからグラフィックまでトータルにプロデュースしています。店内には稀少なツガ材を使った棚が並び、棚主と呼ばれる個人や企業がそれぞれの棚を借りて本を販売しています。
「ほんまる」で特徴的なのは、図書館で使用される代本板を店主が看板代わりにデザインできる点です。公式サイトでも販売中の本が確認でき、新たな書店モデルとして注目を集めています。マニアックな個人の棚と大企業の棚が共存する空間は独特でした。
シェア型書店はオンラインとオフラインの融合という点でも注目に値します。多くのシェア型書店は、実店舗での販売だけでなく、オンラインでの購入も可能にしています。これにより、実店舗での偶然の出会いと、オンラインでの便利さを両立させているのです。
また、棚主たちはSNSを活用して自分の棚の宣伝を行ったり、選書の背景を説明したりすることで、オンライン上でも読者とのつながりを深めています。
このようなオンラインとオフラインの融合は、Amazon Booksが目指していた方向性を、より柔軟かつ個性的な形で実現していると言えるでしょう。シェア型書店は、デジタル時代における新しい書店の可能性を示しています。
前回の記事「苦境の書店、無人店舗が救う? 店内で感じた新たな可能性」で書いたように、書店業界は大きな変革期を迎えています。Amazonの実験的な挑戦から、独立系書店の復活、そしてシェア型書店の台頭まで、さまざまな企業が本と読者を結ぶ新しい形を模索し続けています。
これらの動きは、単に本を販売する場所としてだけでなく、コミュニティの中心として、そして個性的な文化発信の場としての書店の可能性を示しています。
デジタル時代においても、実店舗ならではの魅力と価値は失われていません。むしろ、オンラインとオフラインの融合、そして多様な形態の共存こそが、これからの書店の姿である可能性があります。
読書体験の個別化と共有化が同時に進む中、書店は今後も進化し続けるでしょう。
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