日本が目指す、アジアの「宇宙ハブ」構想 実現可能性は?:台湾ロケット打ち上げが試金石(2/2 ページ)
台湾の新興企業が、外資として初めて日本でロケットの打ち上げ準備を進めている。打ち上げに必要な規制をまだクリアできていないが、実現すれば宇宙への「玄関口」になることを目指す日本にとって追い風になる一方、軍事転用も可能な技術であることなどから、中国の目を気にする声も出ている。
中国が監視を強める可能性
しかし、TiSpaceの打ち上げを巡っては、日本国内から中国との関係を懸念する声も出ている。同社の共同創業者の一人である呉宗信氏は退社後、台湾の国家宇宙センターのトップを務めている。ロケットの打ち上げと弾道ミサイルの発射は技術的に共通するものが多く、台湾企業が日本から打ち上げようとすれば、中国が監視を強める可能性がある。
TiSpaceは、同社は民間企業で台湾政府から資金援助を受けていないと説明。陳会長はロイターへのメールで、現時点で地政学的な懸念は耳にしていないとした。
日本の宇宙政策を統括する内閣府はロイターの取材に「法令にのっとっている範囲内においては、わが国では自由な経済活動や研究活動が保証されている」と回答した。一般論だと断った上で中立的な立場を強調した形だが、内閣府の宇宙政策委員会委員を務める東京大学の鈴木一人教授は、日本から台湾のロケットを打ち上げる計画をビジネスの観点だけで語るのはリスクだと指摘する。「外交的配慮は絶対に必要」と話す。
中国外務省はロイターの取材に、TiSpaceの打ち上げについて「関連状況を把握していない」と述べた。
宇宙港は世界的に競争激化
内閣府によると、2022年に軌道上に打ち上げられた人工衛星は世界で2368機。10年間で11倍に増加した。ロケット打ち上げ事業を手掛ける米スペースXが価格破壊をもたらした影響が大きく、低軌道に投入する商業衛星の輸送需要は今後さらに増える見込みだ。
日本には鹿児島県に種子島宇宙センターと内之浦宇宙空間観測所があるが、いずれも国の基幹ロケット専用の打ち上げ施設だ。民間は大樹町以外に和歌山県、さらに大分県、沖縄県で宇宙港構想が進んでいるが、打ち上げ実績については、インターステラテクノロジズが2019年に日本の民間企業として初めて宇宙へのロケット打ち上げに成功した大樹町が先行している。
打ち上げ需要が増える一方、宇宙港を巡る競争は激化している。ボストンコンサルティンググループのアレッシオ・ボヌッチ氏は、世界では50以上の宇宙港が建設されつつあるが「真に成功し、長期的に自立できるのはおそらく5〜10カ所だろう」と語る。
宇宙政策に詳しい大阪大学の渡辺浩崇・招へい教授は、政治外交上いっそうの困難を伴う台湾のTiSpaceが海外ロケット打ち上げの先例になれるかどうかが、アジアの宇宙輸送ハブを目指す日本にとって「良い試金石になる」と話す。

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