「令和の大暴落」引き起こした日本銀行の“口下手”さ 市場変動の中、企業はどうすべき?:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)
日本銀行の利上げ政策は、史上最大の株価大暴落と大暴騰を同時に引き起こした。企業は現在の市場環境にどう対応すべきか。
FRBはコミュニケーション上手?
市場とのコミュニケーションにおいて、FRBは透明性と一貫性の点で一歩進んでいるといって良い。特に、FOMC(連邦公開市場委員会)の声明や議事録を定期的に公表し、政策決定の背景や将来の見通しを詳細に説明している点が注目される。
ちまたでは「FOMC議事録にどのような単語が何回登場したか」といった定量的な分析や、パウエル議長の表情からFRBがマーケットをどのように見ているのか、そしてこの先の金融政策をどのように考えているかを推測するといった動きもあり、迂闊(かつ)な表現は批判されてきたという経緯がある。パウエル議長は、2020年のCOVID-19パンデミック時には「経済が完全に回復するまで、金融支援を継続する」との発言で市場に安心感を与えたスピーチなどが有名だ。
イエレン前議長も「低金利政策を少なくとも失業率が6.5%を下回るまでは維持する」といった経済指標に基づいた具体的な数値を用いたガイダンスを行い、市場参加者はそれを目安に金融政策の方向性を確認することができた。
一方で日銀の政策への反応として、市場はしばしば混乱と不安定に見舞われる。市場参加者は日銀の政策意図を理解しがたく、結果として急激な市場変動が発生する。
これは黒田総裁の時代にも見られた。2016年1月18日の参院予算委員会ではさらなる金利の引き下げを検討していないと発言したにもかかわらず、11日後の1月29日にマイナス金利付きの金融緩和政策に舵を切り、市場を混乱させた。
2022年12月にも、何の前触れもなく長期国債のイールドカーブコントロールを0.25%から0.5%に引き上げる“事実上の利上げ”を行い、ここでも黒田日銀のサプライズ癖が市場を混乱させた。
このように、日銀はここ10年ほどは市場との対話よりもサプライズやリークといった一風変わった方法で金融政策を取り続けている。今回はそのゆがみが大きく出てしまったと捉えられる。
日銀はFRBにならって、一貫したフォワードガイダンスを提供し、政策の予測可能性を向上させることが求められる。失業率や新たなインフレ率の目標を明確にし、その達成状況に基づいた政策変更を行うことが重要であるだろう。
そして、市場参加者の反応を政策決定に反映させるための双方向コミュニケーションを強化する必要がある。これは答弁をできるだけ細かく・長くするというものではない。中央銀行の発言は市場に大きな影響を与えるため、言葉選びに細心の注意を払うべきであることを考えると、簡潔に多様な解釈の余地がないように答弁をすべきではないだろうか。
令和の大暴落は、日銀の「口下手」なコミュニケーションと利上げ後に会合の議事要旨をひっくり返すような火消し発言といった一貫性の欠如が大きな要因だっただろう。
日銀は、FRBのように透明性を高め、一貫したフォワードガイダンスを提供し、市場との双方向コミュニケーションを強化する必要がある。また、発言の際には言葉選びを今以上に慎重に行い、市場の信頼を回復する努力が求められる。
企業に求められる対応は
市場が絶えず変動していく状況下で、企業はどうすべきなのか。言うまでもなく、経営者は市場情報を常に収集し、自社の経営判断に活用する必要があるが、今の市場をどう見るべきか。
日銀のボードメンバーや政府当局の動きを観測すると、当面は物価対策よりも株価対策を重視しているように捉えられる。急激な物価の下落や円高のリスクは遠のいたと見てよく、ただちに海外拠点の撤退や輸出ビジネスの見直しなどを検討する必要はなさそうだ。
日銀の利上げや利下げは、企業の借入コストに直結する。企業は経営戦略に柔軟性を持たせ、市場環境が変動することを前提に、複数のシナリオを想定しなくてはならない。緩和政策が継続される場合には新規投資を積極的に行い、反対に引き締め政策が予想される場合にはコスト削減や既存事業の効率化に重点を置くといった対応が求められる。
筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Xはこちら
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