「パパは全然面倒みてくれない」「ママがいい」は何が悪かった? しまむらの“残念”すぎる対応を見過ごせないワケ:長浜淳之介のトレンドアンテナ(5/5 ページ)
しまむらグループのベビー・子ども用品専門店「バースデイ」で、一部の商品が炎上した。その後、すぐに謝罪→販売中止に追い込まれたが、それらの対応に問題はなかったか。
安易な謝罪→販売中止でいいのか
今回の騒動では、「不快な商品をバースデイが販売した」というSNSの書き込みに同意する人が次々に現れた。しかし、実際には、SNSに投稿しないが、その商品を支持している人のほうが多かった可能性もある。
しまむらは強い非難を受け、販売を止める前に、「誰が反対しているのか」を立ち止まって考えるべきだったのではないだろうか。
商品担当者がお金と時間をかけて、企画に関する会議を重ね、生産・販売の計画を立て、上司の承諾も得て、工場に発注。ようやく出来上がってきた商品だ。担当した社員には、企業人としての思いや、言い分もあるだろう。
そうした社員のことを考えると、今回の販売中止は、トカゲの尻尾切りのごとき判断を下したようにも見える。自社の商品にどこまで愛情とプライドを持っているのか、大企業病にかかっていないか、心配になってくる。
近年のしまむらは、「しまパト(しまむらパトロール)」と呼ばれる、頻繁にお店を訪れて、膨大な商品群から安価でセンスの良い「プチプラファッション」を抽出してSNSで発信する、インフルエンサー「しまラー」によって売り上げを伸ばしてきた部分もある。
しまむらがSNSに力を入れてきたのは、こういったしまラーとの双方向コニュニケーションのためではなかったか。しまラーが結婚して子どもができたら、バースデイというベビー・子ども用品の店が必要になったという側面もあるだろう。
ところが、今回の加賀美コラボ炎上は、しまパトとは無縁なところで発生した可能性が高い。そこを、しまむらが読み違えたとしたら、即座の販売中止は、ユーザーを無視した“勇み足”と言わざるを得ない。
SNSの難しさは、本来交わるはずのないバースデイのインフルエンサーと、差別に敏感な人たちが、同じ商品情報を目にしてしまうことだ。
今回のバースデイの件に限らず、企業が発表した商品や広告がSNSで炎上したため、あわてて謝罪して販売やCMを中止する事件が続出している。
企業が炎上案件を謝罪して引っ込めることを繰り返していると、ますますこうした傾向が助長される。まず、企業側は非難しているのが、ユーザーかどうかを見極めるべきだ。案件が違法でなく、モラハラかどうかも微妙な場合は、顧客でもない人たちが炎上させようが、ユーザーが支持しているのなら、販売を止める理由にはならないのではないか。
著者プロフィール
長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。著書に『なぜ駅弁がスーパーで売れるのか?』(交通新聞社新書)など。
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