「フロンクス」インドからスゴいクルマがやってきた:池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/5 ページ)
インドからスゴいクルマがやってきた。ただしメーカーはお馴染みのスズキである。その名はフロンクス。スズキのHEARTECTシャシーをベースにしたBセグメントSUVクーペである。
コンパクトSUV戦線に大きな一石
気になるポイントはなかったのかと問われれば、いくつかあるにはあるが、ちょっと無い物ねだり感もある。一番気になったのはフロントシートのサイドサポートで、シートの両サイドがバケットシートのように張り出しているのだが、テストコースで本気で飛ばすと、そのサポートがふにゃふにゃで見た目ほど役に立たない。そんな飛ばし方は公道ではしないという前提ならまあそういうものだといえるが、見た目と機能が違うのはよろしくないと思う。
もうひとつ、ESP(車両走行安定補助システム)が作動してどれか1輪のブレーキをかけたとき、キャリバーの振動がボディに伝わってガーガーとうるさいこと。高級車ではないのだから仕方がないと思うものの、静かなクルマだけに気になる。
リヤシートは座っていると尻が前にずれていく。これは膝裏のクッションをもう少し盛るか、クッションストロークに余裕があるなら反対に尻の下を薄くして座面を前上がりにするべきだと思う。スズキのエンジニアは、「いろんな座り方をする人がいるので」と言うが、そんなだらしない座り方をする人のためにシートを作るのは止めたほうがいい。
もう一点、BセグSUVとしてなかなかに優れたフロンクスは、この市場の戦線を撹乱しそうに思うが、純粋に商品力を考えるならば、ストロングハイブリッドも欲しいところ。スズキにとってはBセグメントを牽引する最上位車種になるはずなので、やはりパワートレインに何か役物はほしいと思う。
ただし、スズキが提唱する「小・少・軽・短・美」には深く同意するので、重くなりがちなストロングハイブリッドよりも軽さで戦うのだといわれると、一理あることは認めざるを得ない。
2024年のコンパクトSUV戦線に大きな一石を投じた一台である。
プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
自動車ジャーナリスト / 自動車経済評論家。
1965年神奈川県生まれ。1988年ネコ・パブリッシング入社。2006年に退社後ビジネスニュースサイト編集長に就任。2008年に編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。自動車メーカー各社の決算分析記事や、カーボンニュートラル対応、電動化戦略など、企業戦略軸と商品軸を重ねて分析する記事が多い。
著者自身のオウンドメディアであり、「事実に基づき論理的・批判的に思考し、しかしいかなる時も希望を持って」発信するディレクターズカット版の自動車コラム「池田直渡の『ぜんぶクルマが教えてくれる』」をnote
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