生成AIは銀行員に代われるか? 顧客対応、コンプラチェック――進む金融業界の活用事例(1/2 ページ)
金融業界で、生成AIを実業務に活用する動きが本格化している。「生成AIの実装は、もはやPOC(概念実証)の段階を超えた」──そんな言葉も飛び出した、金融業界における生成AI活用事例説明会の模様をお届けする。
ChatGPTの登場以来、生成AIへの期待は膨らむ一方だった。しかし最近では、その実用性や具体的な活用方法を巡り、懐疑的な見方も広がっている。「幻滅期に入った」との声すら聞かれる中、金融業界では実業務に活用する動きが本格化している。
アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWS)金融事業開発本部長の飯田哲夫氏は、業界の最新動向をこう分析する。「生成AIの実装は、もはやPOC(概念実証)の段階を超えた。既存の業務アプリケーションに組み込み、実際の製品やサービスとして提供する段階に入っている」
AWSは9月5日に金融業界における生成AI活用事例説明会を開催した。そこで明らかになったのは、生成AIが着実に金融の現場に浸透しつつある姿だ。
生成AI、何ができる? 複雑な金融業界だからこその「余地」は
金融機関がこぞって生成AIの導入に動く背景には、いくつかの要因がある。
まず膨大な顧客データや取引データは、生成AIの学習に最適だ。次に、複雑な金融商品や規制には、AIによる支援の余地がある。さらに、競争激化と低金利環境下での効率化の必要性。これらが、生成AI導入を後押ししている。
実際の組み込みは、さまざまな形で進んでいる。既存の業務システムへの統合、特定業務に特化したAIアシスタントの開発、データ分析や予測モデルへの応用など、その範囲は広い。
飯田氏は、この変化をこう表現する。「最新のトレンドは、生成AIが金融業務に組み込まれていくこと。エンドユーザーは、生成AIかどうかを意識せずに使っていく世界になる」
AWSの生成AI戦略:金融業界への浸透
生成AIの業務アプリケーションへの組み込みは、クラウドの活用が主流となっている。金融分野でのクラウド活用で強みを見せるAWSだが、生成AI導入の初期段階では一風変わった状況が見られた。
POC(概念実証)段階では、OpenAIのGPT-4などをMicrosoft Azure経由で利用するケースが目立った。しかし、実装段階に入ると様相が一変する。「POCを終えて実際にシステムに組み込む段階で、普段使い慣れたAWSのBedrock環境でもテストする企業が増えている」と飯田氏。その結果、最終的にBedrockを採用するケースが増加しているという。
Bedrockとは、AWSにおいて生成AIを活用できるサービスだ。複数のAIモデルを統一されたAPIで利用可能にし、開発者の負担を軽減する。「Bedrockはさまざまな大規模言語モデル(LLM)を提供できる環境だ。APIで切り替えることで、顧客は柔軟にLLMを使い分けられる」(飯田氏)
AWSにおける生成AIサービスの構成。生成AIを使ったサービスを開発するツールであるBedrockでは、東京リージョンでもClaude 3.5のSonnetおよびHaikuが利用可能になった。そのほかMetaのLlama3など複数のLLMモデルを利用できる
では、実際にどのLLMが多く使われているのか。OpenAIのGPT-4の競合であるAnthropicのClaudeが利用できるのがBedrockの強みの一つだ。飯田氏は「Claudeを使っているお客さまが非常に多い」としつつ、「最近は、複数のLLMを使い分ける取り組みや、オープンソースのLLMと組み合わせて使う例が増えている」という。
この背景には、LLMごとの特性とコストの違いがある。例えば「検索では(カナダのAI企業が開発したLLMである)Cohereを使い、まとめる作業ではClaudeを使う」といった具合だ。
さらに「低コストなLLMに大規模なトークンを投入して情報を圧縮し、その後に高度な生成を行う」という段階的なアプローチも見られる。これにより、生成AIの利用に関わるコストを大幅に削減できるという。
他のクラウドプロバイダーに対する優位性について、飯田氏は自信を見せる。「AWSは多くのエンタープライズ企業で既に利用されている。業務アプリケーションを動かすベースとして選ばれている実績がある」
では実際にAWS上で進んでいる、金融向け生成AI技術の実装を見ていこう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
「ギャルのお悩み相談」も パーソルが社内GPTの“プロンプト掲示板”を作ったら、何が起きたのか
言葉が思い出せないときには「あれ、あれ、あれだよあの単語」。誰かに悩みを聞いてほしいときには、ギャルが明るく解決してくれる「悩みへの認知行動療法的アドバイスbyギャル」。パーソルグループの社内GPTでシェアされている、生成AIへの指示文(プロンプト)だ。プロンプトをシェアし合うことで起きた「思わぬ効果」とは?
地方中小企業でも、年収アップ! DXで間接業務を9割削減、“昭和の工場”を変えた若社長の大改革
管理職の平均年齢は39歳にして平均年収は820万円と、地方製造業として高水準を誇るその企業の名前は、三共電機。会社を父から継いだ三橋進氏は、自ら業務アプリを開発するなどデジタル化を主導し、残業時間を減らしながら社員数は1.8倍、売り上げは約1.5倍に。「どうせ無理」と否定的な声が多かったという社内や、先代社長である父との“壮絶な親子喧嘩”を経て、どのように改革を進めていったのか。
なぜ、基幹システムのリプレースは大失敗するのか 日本企業に足りない「ある役割」
基幹システムのリプレースに失敗してしまう背景には、日本企業の組織面の問題がある。欠落してしまっている役割とは?
中小企業には「DXなんて無理」って本当? 現状を変える「BPaaS」の可能性
人手不足に悩む地方の中小企業。DX推進の必要性は理解しているものの、専門人材の確保が難しく、高度なITシステムの導入にも二の足を踏む──。「BPaaS」が、こうした企業の救世主になり得るかもしれない。
