経理はもう、AIに仕事を奪われ始めている では、生き残るため何が必要か?:シン・経理組織への道(2/2 ページ)
経理は「AIによってなくなる仕事」として頻繁に挙げられる、AIによる変化の影響が大きい職種です。AI活用の巧拙が企業競争力に及ぼす影響は大きくなると予想されます。AIを使いこなす経理人材のニーズも高くなるに違いありません。
AIを使いこなす経理人材
コンピュータやソフトウェアが得意なことはこれらに任せ、浮いた余力は人にしかできないことに注力させる。デジタル投資を検討する場面で必ず目にするこの言葉は、AIに置き換えてもそのまま通用します。しかしその場合、考慮すべきポイントが2つあります。
- (1)コンピュータやソフトウェアに任せることも不十分なのに、果たしてAIに任せられるのか
- (2)AIの活用領域が広がる中で、経理業務において人にしかできないことは何か
(1)果たしてAIに任せられるのか
ここでは経理人材に焦点を当てているので、「会社の中で経理部門へのデジタル投資の優先度が低い」という点はいったんわきに置きます。
AIにできることを任せるために人はどうすればよいかについて考えると、大きく3つあります。
1つ目は、AIは何が得意で、何が不得意かを知る必要があります。この点においてテクノロジーとしてのAIを詳しく知る必要はなく、AIの概要について解説した本を読み、AIを活用した経理業務向けのシステムやサービスにどんなものがあるか情報収集すれば十分です。ただし、AIもAIを実装したシステムやサービスも日々進化するため、定期的にアップデートすることが重要です。
2つ目は、自社の経理業務のあるべき姿と課題を知ることです。日々の仕事をただこなすだけでは、あるべき姿はイメージできませんし、課題も見えてきません。自社において経理業務はどうあるべきかを明確にし、経理業務の全体を俯瞰(ふかん)して、どこに課題があるかを把握する。また、その過程において、他社の経理とも目指す姿や仕事の進め方などについて情報交換を行い、自社の経理業務を客観的に評価することも大切です。
そして、3つ目が、もっとも基本的なことですが、変わることを厭わないことです。
(2)人にしかできない経理業務とは何か
慶應義塾大学環境情報学部の教授でデータサイエンティスト協会の理事である安宅和人氏は、著書の『シン・ニホン 〜AI×データ時代における日本の再生と人材育成〜』の中で、データ×AIの力を解き放つためのスキルセットとして、「ビジネス力」「データエンジニアリング力」(※1)「データサイエンス力」(※2)の3つを挙げています。
(※1)情報処理、人工知能、統計学などの情報科学系の知恵を理解し、使う力
(※2)データサイエンスを意味のある形に使えるようにし、実装、運用できるようにする力
この3つのスキルは全て必要ですが、1人の人間が全てのスキルを高いレベルで保持するのは困難です。どれか1つの領域で高いレベルを保持し、残りの領域は最低限にナレッジを持った人たちがチームを組んで補完し合うことが現実的であると指摘しています。
この3つのスキルの中で、経理人材が最も力を発揮できるのが「ビジネス力」です。ビジネス力とは、課題背景を理解した上でビジネス課題を整理し、解決する力を指します。これを目にして、経理のプロフェッショナリティと重なる部分が多いと感じた経理関係者は少なくないと思います。
図3は筆者がERPベンダーに在籍していた頃に、経理がプロフェッショナリティを発揮する上でのERPの有効性を説明するために作成したものです。
図3で示すように、経理は会社全体の動きを数字で把握できる立場にあり、単に数字をまとめて報告するだけでなく、どこに問題があるかを特定し、課題解決の施策を提示することが期待されています。
その役割を果たすために必要な経理のプロフェッショナリティを、下段の4つの青枠で示しました。まさにデータ×AIの力を解き放つためのスキルの一つである「ビジネス力」に類似しています。AIを使いこなす経理人材になるためは、何か特別なことを新たに始めるのではなく、経理人材としてのコアを磨くことが重要なのです。
最後に
「経理はもっと、進化できる」──本連載「シン・経理組織への道」を通して、お伝えしたかったことはこの言葉につきます。
ダーウィンの進化論に関連した言葉に「強いものが生き残るのではない。変化に対応できたものが生き残る」という言葉があります。現時点の姿ではなく、生産性高く仕事をし、ビジネスへの貢献の手応えを感じ、仕事以外でも充実した時間を過ごす“進化した”自分を想像してみてください。
テクノロジーが全てを解決するわけではありませんが、テクノロジーが進化を大きく後押しすることは間違いありません。「経理の現場はデジタル化が進んでいない」ということは、伸びしろがたくさんあることを意味します。先人の知恵である先行企業の経験も参照しながら、人も組織も、進化に向けて帆を上げましょう。
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