経理はもう、AIに仕事を奪われ始めている では、生き残るため何が必要か?:シン・経理組織への道(1/2 ページ)
経理は「AIによってなくなる仕事」として頻繁に挙げられる、AIによる変化の影響が大きい職種です。AI活用の巧拙が企業競争力に及ぼす影響は大きくなると予想されます。AIを使いこなす経理人材のニーズも高くなるに違いありません。
経理業務に関連するテクノロジーは、帳簿を管理するERPや会計システムを中心に、さまざまなアプリケーションやツールが提供されています。近年は徐々に、AIを実装しているものが広がりつつあります。
経理は「AIによってなくなる仕事」として頻繁に挙げられる、AIによる変化の影響が大きい職種です。また、常に人材不足の職種の一つであり、ハイクラスだけでなく中堅クラスの人材も転職が活発化しています。こうした状況下において、スキルが低い経理人材の生産性をAIが高める可能性があることは、大きな意味を持ちます。
今後はAIの活用領域が広がり、AI活用の巧拙が企業競争力に及ぼす影響は大きくなると予想されます。AIを使いこなす経理人材のニーズも高くなるに違いありません。
連載「シン・経理組織への道」の最後となる本記事では、経理業務におけるAIなどの最新テクノロジーの活用の現状と展望について解説します。
経理業務におけるAI活用の現状
デロイト トーマツ グループが、プライム市場に上場している企業を対象に実施した調査の結果は、経理に携わる人にとって少しショッキングなものでした。全体の3割を超える回答者が、生成AIの導入によって人員の配置転換を行ったと回答し、そのうち、経理財務部門の人員を削減したという回答が30.1%で、他部門を抑えて最も高い数値だったのです。
現場は否定的に捉えがちな人員削減ですが、図1のようにデジタル化を推進して、スコアキーパー寄りの業務に携わる工数(人)を削減し、より付加価値高い業務へリソースをシフトさせようとしている経理部門は少なくありません。近年のハードウェアの処理能力の進歩とML(機械学習)やAIのような新しいテクノロジーによって、情報処理的な業務における生産性とスケーラビリティは桁違いに向上しており、これを経理業務に活用しない手はないのです。
では、経理業務におけるAI活用の現状はどうでしょうか。日本CFO協会が2024年に企業の経理組織を対象に実施した調査では、経理業務にAIを活用している企業は13%、活用していない企業は87%。経理業務におけるAI活用の割合はかなり低い結果となりました。
これには「そもそも経理部門に対するデジタル投資の優先度が低い」とか「新しいものにはすぐに飛びつきたくない」「同業他社の様子を見てから判断する」といったシステム導入において多くの日本企業に見られる傾向の他、「組織や人が保守的で今までの仕事のやり方を変えることに消極的」「経理部門はテクノロジーに対するアンテナが低く、AIの情報に疎い」など、さまざまな理由が考えられます。
しかし、いつまでも待ち構えているだけでは、先行している13%の企業との差は開くばかりです。何より、本連載の過去3回の記事で解説したように、多くの企業において経理業務の現状は持続可能ではないのです。
AIを活用した経理業務の例
AIを活用した経理業務について、先の日本CFO協会の調査では「データエントリーと転記」(42%)が最も多く、その次に「予測分析やリスク評価」(27%)という結果に。全体的に、従来のテクノロジーをAIで強化しているケース(AI-OCRやBI+AIなど)が多いことが確認されました。
一方で、問い合わせ対応や開示文書作成など、従来のテクノロジーでは対応が困難だった領域での活用も一定数ありました。また、「その他」の中には「資本的支出の判定」といった判断の自動化や、「売上債権の入金消込」のようにAIで判断能力を強化することで処理の自動化が可能になった(もしくは自動化の範囲が拡大した)業務もありました。
(図2)経理でAIを活用している業務/出典:日本CFO協会サーベイ「経理部門のDX推進に向けた実態と課題2024」2023年6月〜7月実施、調査母数552人。「その他」の内容を吟味し、他の選択肢に割り振る調整を加味した。
これまでのテクノロジーでは対応が困難だった領域では、コールセンター業界における「問い合わせ対応」にAIが導入され、生産性の向上に大きく寄与しています。文書の作成や判断の自動化といった高度な専門性を要する領域でも、PwC税理士法人と三菱商事が生成AIを活用した経理業務改革の実証実験を行っており、今後、こうしたAIならではの活用方法が増えてくることが予想されます。
また、予測分析やリスク評価は前段で引用した図1の「未来志向型の経理財務」では大いに期待されるところであり、分析や評価の対象となるデータの範囲が広くなればなるほど、その効果も大きくなります。そのため、データ(定量情報、定性情報)の準備が非常に重要なポイントとなります。
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