増える「社員向け株式報酬」、企業の意図は? 実は思わぬデメリットも:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(1/2 ページ)
企業の株式報酬が、拡大する可能性が高まっている。政府は、役員だけでなく従業員にも自社株を無償譲渡できるようにする会社法改正を検討していると報じられている。制度のメリットとデメリット、そして特に大企業で起きやすい問題などについて解説する。
企業の株式報酬が、拡大する可能性が高まっている。
政府は、役員だけでなく従業員にも自社株を無償譲渡できるようにする会社法改正を検討していると報じられている。具体的な条件などは確定していないものの、近い将来、従業員への株式報酬の解禁が現実的になってきた。
一部報道によれば、2024年度中に改正案に関する議論が始まる見込みだ。一般社員における報酬制度に、新たな選択肢が加わる可能性が高い。本記事では、この株式報酬制度のメリットとデメリットについて解説し、特に大企業における「フリーライダー問題」やその対策にも触れながら、企業がこの制度を導入する際に押さえておきたいポイントを考察する。
従業員に「経営意識を持たせる」? 株式報酬が拡大か
そもそも株式報酬とは、企業が従業員や役員に対して、給与やボーナスの一部として自社株を支給する制度だ。これにより、従業員は自社の株主となり、企業の成長や業績に直接的な利害関係を持つようになる。
メリットは、従業員の経営参加意識が向上する点だ。従業員が自社の株主となることで、勤務先の業績向上が自分自身の利益にも直結すると実感できる。
また、企業にとってはコスト面の利点があることも見逃せない。株式報酬は、現金報酬に比べてコストを抑えられる。また、株式報酬を現金化した際の最終的なコストは多くの場合、雇い主の企業が負担するのではなく、投資家に転嫁される。
特にスタートアップ企業では、株式報酬を活用することで現金を多く使わずに優秀な人材を確保する選択肢が増える。
従来はストックオプションなどを報酬として提供することが一般的だったが、ストックオプションはあくまで株を買う「権利」にすぎず、株式そのものではない。企業によって行使条件はまちまちだが、その内容によっては相続できなかったり、株式に変えられないまま失効したりするリスクもある。そのため、より“強い”資産である株式そのものを無償で付与できるのは、企業と従業員の双方にとって魅力的な選択肢となり得る。
株式報酬のデメリット
一方で、株式報酬にはデメリットも存在する。最も大きな課題は、株価の変動リスクだ。株式報酬は市場の影響を受けやすく、株価が下落した場合、従業員が受け取る報酬の価値も大幅に減少する。
こうした状況が続くと、従業員のモチベーション低下や、離職率の上昇が考えられ、企業にとってもリスクとなる。業績が悪化した際や市場全体が不安定な場合には、株式報酬が逆効果となる可能性があるのだ。
また、株価の上下が従業員にとってストレス要因となる可能性にも注意が必要だ。資産の運用には「リスク許容度」という尺度があり、個別株式は比較的リスク許容度が高い者でなければ本来は手を出してはならない金融商品だ。一律で従業員に株式を付与してしまうと、リスク許容度のミスマッチが起きかねない。
他にも、自社株式を保有する従業員は、会社の経営が傾いた時に職場の安定性と資産が同時に損なわれる、“Wパンチ”を喰らってしまうデメリットもよく指摘される。資産運用の基本は分散投資だが、職場と運用対象が同じになってしまうと自分の会社に集中投資するようなものであり、過度なリスクテイクとなる懸念もあるわけだ。
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