AI活用で「2次選考以降の合格率」向上 サイバーエージェントの成果につながる使い方:人事のAI活用、ここまで来た! サイバーエージェント編
サイバーエージェントが新卒採用の1次選考のグループディスカッションでAIを活用し、成果を出している。1次選考の選考枠は150%増加し、さらに2次選考以降の合格率も向上しているという。どのような使い方で成果を出しているのか?
新連載:人事のAI活用、ここまで来た!
採用の現場で、AIを活用する動きが広がっている。
サイバーエージェントは2023年12月ごろから、新卒採用のグループディスカッションでAIを活用している。同社はビジネスコースの選考においてはエントリーシートや試験などは導入しておらず、6〜7回の面接とインターンシップで構成する。
1次選考としてグループディスカッションを、複数人の学生に対し選考官の社員1人の体制を取っていたが、年々エントリー数が増加していた。選考官の時間調整が難航し応募学生に対する選考枠の提供が十分にできない可能性の高まりや、それによる優秀な学生の選考離脱、意識低下などを懸念していたという。
そこで、グループディスカッションの選考枠を増やすためにAIを導入。録画データを基に、選考官が合否を判断する方法に変更することで、選考官のアサインや時間調整が減り、結果的に選考枠は150%に増加した。さらに、2次選考以降の合格率も向上しているという。
着実に効果が出ていることが分かるが、どういった活用方法で成果を出しているのか?
成果につながるAI活用 グループディスカッションでどう使う?
今回のAI導入のきっかけは、2023年7月にさかのぼる。同社の人事本部は、選考データから内定後のデータにいたるさまざまなデータに基づいた分析を通じて、採用フローの見直しや選考基準の明確化を進めていた。これにより、社内カルチャーに合致する人材の採用を促進する取り組みだ。今回のAI導入も、その一環として実施した。
グループディスカッションでは、バベル社が提供する、商談解析クラウド「ailead」を導入。個人の発話量データ算出において、任意のタームで発話量を可視化できる機能を追加してもらったという。
「AIの音声解析によって、グループディスカッションにおける話者分離データや発話率を把握できるようになりました。1次選考では、ブレイクアウトルームごとに録画したグループディスカッションの様子をAIの音声データ解析を参考にしながら視聴し、合否を判断しています」
これまではグループディスカッションに選考官が立ち会っていたが、後日録画データを確認する方法に変更。非同期でチェックし選考できるようになったため、選考官のアサインや時間調整が削減され、選考枠を150%に増やすことができた。
AIは活用しているが、AIを基に合否を判断することはないという。1人の社員が複数人の選考を同時に行うよりも、録画データと学生ごとの発言データを照らし合わせることで、効率性と公平性の改善が期待できるとの考えだ。
AI導入がもたらした成果は、選考枠の増加にとどまらない。音声データの解析機能の活用により正確な評価軸での選考ができるようになり、2次選考以降の合格率も向上した。
「当社では、入社後に活躍できるか、チームとして一緒に働きたいと思えるかという視点で選考を実施しており、カルチャーマッチするかどうかは属人的な判断が多くを占めています。そして、グループディスカッションは限られた時間で複数人を見るという体制上、見極めの難易度が高いという声が選考官から上がっていました。必要に応じて見返しができる録画を基にした選考に切り替えたこと、また参考データとしての音声データの活用という点が、2次選考以降の合格率にも寄与したと考えられます」
選考過程にAI活用 否定的な学生も
ソフトバンクが2018年の新卒採用でIBM社のAI「Watson」を活用したエントリーシートの合否判定を導入した結果、所要時間の75%を削減したというニュースは、選考フローにおけるAI活用の可能性を示唆した。
一方で、AIが合否判定を下すことに否定的な姿勢を見せている学生は少なくない。HR総研が発表した「2019年卒学生 就職活動動向調査」(3月調査)によると、「AIによるエントリーシートの合否判定」に「賛成」と回答したのは、文系で19%、理系で25%にとどまった。約4割が「どちらともいえない」としているものの、反対派が多数を占める。「AIによる面接の合否判定」についても、文系は56%、理系は48%と、多くの学生が「NO」を表明した。
サイバーエージェントでは、AIを基に合否を判断することはしていないが、学生に対しては以下のようにアナウンスしているという。
「選考案内のメールと、選考開始前のオリエンテーションで、録画選考で実施する旨をお伝えしています。今回の取り組みは、選考精度を向上させ、より多くの学生に選考参加枠を提供するという選考体験価値の向上を目的としています。実際、選考に参加した学生からもポジティブな意見が寄せられており、選考の効率化によって学生に対してメリットがある状態が作れていると考えています」
AIによる業務効率化の実例はさまざまな部署で見られている。採用現場での導入は対学生ということもあり、慎重になる場面も少なくないかもしれないが、採用の風景はこれから大きく変わっていくだろう。
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