巨大プロジェクトは「99.5%が大失敗」――なぜ? オックスフォード教授の見解(1/2 ページ)
大小かかわらず、官民問わず、さまざまなプロジェクトが進行する中で、「予算内、期限内、とてつもない便益」という3拍子をそろえられるのは0.5%にすぎない。なぜなのか。
大小かかわらず、官民問わず、さまざまなプロジェクトが進行する中で、「予算内、期限内、とてつもない便益」という3拍子をそろえられるのは0.5%にすぎない。
世界中のプロジェクトの「成否データ」を1万件以上蓄積・研究するオックスフォード大学教授が、予算内、期限内で「頭の中のモヤ」を成果に結び付ける戦略と戦術を解き明かした『BIG THINGS どデカいことを成し遂げたヤツらはなにをしたのか?』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けする。
「先のこと」となるときちんと予測できない
これは深刻な問題である。プロジェクトは、「一定の期日までに、一定のコストで完成させ、一定の便益(例えば収益、コスト削減、乗客数、発電量など)をもたらす」という約束の下で実行される。
では、プロジェクトが約束通りに実現する確率はどれくらいあるのだろう? これ以上ないほど単純な質問だ。
だが驚いたことに、私が1990年代に研究を始めた当時、それに答えられる人は1人もいなかった。データは収集も分析もされていなかった。
当時は予算が10億ドルを超えるプロジェクトが、「メガプロジェクト」と呼ばれ始めていた時代だ。巨大なプロジェクトに累計何兆ドルもの資金がつぎ込まれていたことを考えると、実に不可解なことだった。
私たちのデータベースは、輸送プロジェクトから始まった。ニューヨークのホランド・トンネルや、サンフランシスコの公営高速鉄道(BART)システム、ヨーロッパの英仏海峡トンネル、それに20世紀に建造された橋やトンネル、高速道路、鉄道。
5年かけて、チームとともにこれら258件のプロジェクトを分析し、この種のものとしては世界最大のデータベースを構築することができた。とうとう2002年に数字を発表し始めると、大きな波紋が広がった。なぜならそれは前例のない試みだったし、何よりデータによって悲惨な実態が明らかになったからだ。
「1910年から1998年までに実施されたプロジェクトのコスト見積もりは、最終コストを平均28%も下回っていた」と、ニューヨーク・タイムズが私たちの調査結果を要約して報じている。「誤差が最も大きかったのは鉄道プロジェクトで、実際のコストは見積もりを(インフレ調整後の数字で)平均45%も超過した。橋・トンネルの超過率は34%、道路は20%。見積もりの9割が、実際のコストより低かった」。工期と便益の誤差も同じくらいひどいものだった。
しかも、これらは控えめな解釈だ。測定方法を変えて、より早い段階の数字を用い、インフレを考慮すれば、さらにひどいことになる。
そんな折、世界的コンサルティング会社のマッキンゼーから、ITプロジェクトのデータ分析で協力してほしいとの依頼があった。
マッキンゼーの研究員は、最大で100億ドル規模の超大型ITプロジェクトを調べ始めたところだったが、暫定的な分析結果があまりにも悲惨なのを見て、「いくら輸送プロジェクトがひどいと言っても、ITプロジェクトの比ではないですよ」と言ってきた。
私は笑った。ITがそこまでひどいはずがないと思ったのだ。だがマッキンゼーと共同調査を行った結果、実際にITプロジェクトの実態が輸送プロジェクトに輪をかけてひどいことが判明した。とはいえ、「予算超過、工期遅延、便益過小」というパターンは、大まかには同じだった。
これは衝撃的な発見だった。例えば、橋やトンネルを想像してほしい。次に、米国政府の医療保険サイト、HealthCare.govを思い浮かべてみよう。これは医療保険制度改革、通称「オバマケア」が提供する医療保険の登録サイトだが、開設直後からシステム障害が相次いだ。あるいは、イギリス国民健康保険(NHS)のITシステムを想像してほしい。
こうしたITプロジェクトは、鉄骨ではなくプログラミングコードでできていて、輸送インフラとはあらゆる点でかけはなれているように見える。なのに、なぜどちらも予算超過、工期遅延、便益過小という、統計的に非常に類似した結果を示しているのだろう?
続いて私たちはオリンピックをはじめとする「メガイベント」を分析したが、やはり同様の結果が出た。巨大ダム? 同じだ。ロケット? 防衛? 原子力発電? どれも同じだった。石油・ガス、採掘プロジェクトもそうだ。そのうえ、美術館やコンサートホール、高層ビルの建設のようなごく一般的なプロジェクトまでもが、このパターンに当てはまった。私は驚いてしまった。
しかも、これは特定の国や地域に限ったことではなかった。世界中どこでも同じパターンが見られた。効率性で知られるドイツにさえ、目を覆いたくなるようなコスト膨張や無駄の事例がある。例えばベルリンのブランデンブルク新空港は、予算を数十億ユーロ超過して、予定より数年遅れの2020年10月に開業し、わずか1年後に倒産の危機に陥った。
精密時計と時間に正確な鉄道で知られるスイスさえ、お粗末なプロジェクトの例には事欠かない。例えばスイスアルプスのレッチュベルク基底トンネルは完成が遅れ、予算の2倍のコストがかかった。
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