システム導入で起きる“深刻な部門対立”どう解決? あの部署の効率化で、こっちの部署から不満噴出:ファイナンス組織「3つのジレンマ」とデジタル活用(1/3 ページ)
システム導入の際、現場では部門間の対立が起きてしまいやすい。利害対立を越えて、プロジェクトを推進していくためには何が必要なのだろうか。
新連載:ファイナンス組織「3つのジレンマ」とデジタル活用
現在のファイナンス組織は、前例にない環境変化と不確実性の渦中で、3つのジレンマを抱えている。1つ目は、人材不足で従来業務の遂行すら難しい中で、ビジネス・パートナーとしての役割高度化にも並行して取り組まなければならないこと。2つ目は、既存事業の深化と新規事業の探索、あるいは求心力と遠心力といった背反するテーマを扱わなければならないこと。3つ目は、短期的な株主価値を求めるアクティビストと対峙する一方で、マルチ・ステークホルダー経営を推進しなければならないことである。
本連載では、これらのジレンマの解消に向けて、最新のデジタル技術をどのように活用すべきかを解説する。
前回記事では、多くの日本企業で基幹システムのリプレースが失敗に終わる原因として、俯瞰(ふかん)的に業務プロセスをデザインする「プロセスオーナー」が不在である点を取り上げた。今回は、このプロセスオーナーが担うべき役割とは何なのか、解説したい。
前回の記事
部門間の利害対立をどう越えるか
最初に述べておきたいのは、基幹システムのリプレースはあくまでも手段であるということだ。プロセスオーナーとDXを組み合わせる最大の目的は、機能部門別に個別最適化された会社の仕組みを、部門横断の全社最適なものに改めることである。
部門個別最適で硬直化された仕組みでは、事業環境の変化に応じてビジネスを迅速・柔軟に対応させることも、頻繁なレギュレーション変更に即座に対応することも困難だ。さらに言えば、労働人口の減少といった長期的なトレンドや大規模災害・地域紛争といったアクシデントから強靭に回復することも見込みづらい。こうした変化や不確実性に強い、レジリエントな(回復力がある)オペレーションモデルを構築することこそが、プロセスオーナーを基軸としたDXを推進する目的である。
実はERPの登場と時期を同じくして、企業に求められるマネジメントスタイルは変化している。
企業を取り巻く環境変化や不確実性がそれほど大きくない時代は、営業、工場、ファイナンスなどの各機能部門がおのおのの役割に対して最善を尽くすことで、その総和が企業全体の業績に直結する、いわば足し算のマネジメントが主流であった。
こうしたマネジメントスタイルのもとでは、各部門が最大限のパフォーマンスを発揮するために、部門固有の業務機能要件を専用システム機能として実装することが求められてきた。
しかしながら、ある機能部門の要求を満たすことが、他部門の不利益につながるというのは、残念ながらよくある話だ。こうした部門間のトレードオフの関係を見定め、プロセス全体を通じて部門横串の最適解を見いだし、合意に基づき各機能部門が連動して動くことの重要性が、昨今の経営環境ではますます重要になっている。
環境変化や不確実性が高まる昨今、絶対的な正解が存在するわけではなく、最適解は常に変動し続けている。最適解を見直し、合意形成し、新たな部門連動を実現する──というサイクルを頻繁に繰り返せるマネジメントスタイルが求められている。
そしてそのようなマネジメントスタイル実現のためには、一気通貫したデータを基に合意形成と部門間のオペレーション連携を支える、統合された情報システムが必要となる。これがERP(Enterprise Resource Planning)と呼ばれるゆえんである。
となると、図1の右側に示すように「機能部門の利害を超えて最適解を見いだした上で関係部門の合意を取り、各部門がスムーズに連携できるような業務プロセス」を俯瞰的にデザインし、またメンテナンスする役割が必要となる。この役割がプロセスオーナーである。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
なぜ、ERPを導入したのに「紙や手作業が残る」のか──経理現場に必要なモノ
多くの企業の経理部門が会計システムとしてERPを導入していますが、今なおExcelを多用した手作業への依存度は高く、決算期間中の長時間残業も解消されたとは言えません。その対策を考えます。
「とにかく人手不足」の経理部でも、優秀人材を確保・育成する“4つのカギ”
経理組織の現場は人手不足に悩まされながら、さらに役割の高度化にも取り組まなければならない。余裕があるとは言いがたい日常業務の中で、人材の確保・育成にはどのように取り組むべきなのか。
デキるCFOは「データを報告させずに手に入れる」 求められる“新たな役割”とは?
企業がさまざまな側面において変革を迫られる中、CFOやその参加の財務経理部門も、その役割を大きく変化させる必要があるようだ。CFOはもはや“金庫番”ではなく、また財務部門のリーダーとして数字を取りまとめるのでは不十分だと、アクセンチュアの山路篤氏は話す。
「月末が憂鬱だった」 定型業務を“8割削減”、メドレー経理の変革とは
月末が近づくと憂鬱になる──期限内に終わらせなければというプレッシャーを抱えていたメドレー財務経理部門では、社外のツールや自分たちでシステム開発をするというDXによって8割の業務削減に成功した。その手法を探る。
ミスは許されない──経理の7割が「入金消込に課題」 効率化進まぬ実態は
経理の人手不足が顕著となる中、手間のかかる入金消込業務について、経理部門はどのような課題を抱えているのか、Sansanのインボイス管理サービス「Bill One」が調査を実施した。

