夫婦で家事分担、かえって忙しくなるナゾ 増え続ける「ステルス負担」の正体:働き方の見取り図(3/3 ページ)
男性の育休習得率が高まっている一方、夫婦で家庭の仕事は分担できても、職場の仕事量が一向に減らず、家庭と職場の総工数はむしろ増えてしまう――といった、おかしな状況が起きている。一体、どういうことなのか。
育休取得率だけに目を奪われてはいけない
女性活躍が推進され、仕事も家庭も夫婦が半々で担うケースは、今後の標準パターンの一つになりつつあります。しかし、夫婦が150ずつの工数を担って総工数300という生活は大変です。中にはそれが出来てしまうタフな夫婦もいるかもしれません。
ただ、そんな特別な能力を持つ人が「私ができたのだから、あなたもできる」などと言い放っては、周囲の人を追い込むだけです。誰もが無理なく生活できる状態を実現するには、夫婦が担う工数が100ずつになるよう抑える必要があります。例えば以下のように、仕事工数70、家庭工数30に配分するという具合です。
ただし、この場合はこれまで仕事にかけてきた7割の工数で400万円の収入を得る必要が出てきます。1日8時間勤務を100と見なすなら、5.6時間の勤務で400万円の収入を得る計算です。週5日働く場合、時給換算すると3000円弱になります。石破首相は2020年代のうちに最低賃金1500円を目指すと言っていますが、このモデルだとその倍近い生産性の実現が必要です。
またこのモデルの場合、家庭にかける工数は夫婦合わせて60になります。40減らさなければなりません。そのためには「食事は、毎回一汁三菜」などとこだわらず、買ってきた総菜や冷凍食品で済ませる日があっても良しとしたり、2〜3日に一度は行っていた部屋の掃除を週に一度に減らしたり、それを家族が受け入れるといったことも必要になります。家事代行を頼んだり、親世帯との同居などといった選択肢も入ってくるかもしれません。
それら“家周り改革”については、各家庭が自力で取り組めることです。工夫次第では家庭工数を50や30に下げることも可能かもしれません。一方で、賃金の時給単価を上げる生産性向上については、職場での取り組みに委ねられます。
男性が育休を取りやすい機運が生まれ、取得率が上昇してきているのは素晴らしいことです。しかし、共働き世帯でステルス負担が膨らむにつれて増える夫婦の総工数を考えると、男性育休取得率などの数字にばかり目を奪われず、家周り改革と職場の生産性を高める働き方改革を両輪で回す必要があるのではないでしょうか。
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