個人ローンを「買い物履歴で審査」、どういうこと? セブン銀行は金融業界を変えるか:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(1/2 ページ)
セブン銀行は個人向けローンの与信審査に、従来の審査基準に加える形で、セブン&アイ・ホールディングスの共通IDの購買データを活用する取り組みを始める。期間限定の施策だとしているが、この取り組みが拡大していった場合、何が起きるのだろうか。
セブン銀行は、他行ATMの利用手数料に依拠したビジネスモデルで長年注目を集めるとともに、安定した収益を上げてきた。セブン-イレブンやイトーヨーカドーといったグループの広大な店舗網を活用し、他行の顧客が手軽にATMを利用できる環境を提供することで、自社で口座を開設してもらわなくても安定的に手数料収入を確保してきたのだ。
このモデルは、日本国内でのATM利用が拡大していた時期には非常に有効であったが、今や大半の店舗にセブン銀行のATMが導入されていることもあり、収益の伸び率は鈍化している。
そんな中、10月16日に新たな取り組みを発表し、注目を集めている。同行の個人向けローンの与信審査に、従来の審査基準に加える形で、セブン&アイ・ホールディングスの共通IDの購買データを活用するというのだ。期間限定の施策だとしているが、この取り組みが拡大していった場合、何が起きるのだろうか。
セブン銀行が「買い物履歴でローン審査」を考え出したワケ
2025年3月期第1四半期のセブン銀行の経常収益は前年比24.6%増の約514億円となった。特に、ATM利用件数の増加やキャッシュレス決済の普及による収益拡大がみられる。その一方で、経常利益は前年比7.4%減の約71億円となり、純利益も12.5%減少して約46億円と増収ながら減益決算だ。
事業分野別にみると、主力の国内事業では、ATM総利用件数が前年同期比5.4%増の2億6800万件に達しており、ATM設置台数も2万7604台に増加した。その一方で、セブンイレブンの総店舗数2万1615店舗であることや、セブン銀行のATMが設置されているイトーヨーカドーの売却が近い将来に見込まれている点を踏まえると、国内のセブン銀行ATM設置台数は理論上の限界値に近づいており、これ以上の成長は見込みづらい。
また、クレジットカード事業や電子マネー「nanaco」の会員数は増加しているものの、利益貢献は限定的で、このセグメントにおける経常利益は約4億6900万円にとどまっている。もともとセブン銀行は自行の口座数が多いわけではなかったことから全体の業績を牽(けん)引するうえではやや心もとない状況だ。
そして海外事業では、米国やフィリピンでのATM設置が進んでいるが、今だ収益の柱となるには至っておらず、約5億円ほどの経常損失が出ており黒字化に時間がかかっている。現時点ではコスト先行の段階であるため、短期的な利益向上は依然として見込めていないようだ。
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