あずきバー「井村屋」が挑むDX 現場の抵抗があっても、意外とSaaS移行できたワケ(2/2 ページ)
「あずきバー」で知られる、井村屋グループ。創業127年の歴史を持つ同社は今、大胆な変革に挑んでいる。老舗菓子メーカーはどのようにして、SaaS移行を成し遂げたのか。
DX戦略の特別部隊
井村屋グループがDX推進で直面した課題を乗り越えられた秘訣は、現場を巻き込んだ大規模なプロジェクト体制にあった。
DX戦略プロジェクトには、約40人のメンバーが参加している。この規模は、同社の従業員数からすると決して小さくない。「生産現場、営業部隊、管理部門など、各部署から人が集まっています」
プロジェクトの特徴は、その多様性と階層横断的な構成だ。「当初は管理職が中心でしたが、今は実務担当者レベルの人も多く参加してもらっています」。このアプローチにより、現場の生の声をDX戦略に反映させことが可能になった。ここで出された意見は、具体的なSaaS選定や導入計画に反映される。「現場の声を聞くことで、導入後の抵抗を最小限に抑えることができました」
しかし、全ての変革がスムーズだったわけではない。「特に、長年続いてきた業務慣行を変えるのは難しかった」と岡田氏は率直に語る。例えば、経費精算のキャッシュレス化に対しては、「仮払金がなくなると困る」「個人の立替精算に抵抗がある」といった声が上がった。
これらの課題に対し、粘り強く対応した。プロジェクトメンバーが各部署に戻り、変革の必要性を地道に説明した。また、新しいシステムの使い方講習会を頻繁に開催し、社員の不安解消に努めた。
プロジェクトでは、導入後のフォローアップも重視している。「定期的に利用状況を確認し、必要に応じて改善策を講じています」。この継続的な改善の姿勢が、DXの効果を最大化している。
通信インフラ刷新で「従業員のエンゲージメント向上」も狙う
井村屋グループのDX戦略の中で、特筆すべきは通信インフラの刷新だ。同社は、多くの企業に先駆けてZoomを導入し、さらに現在はZoom Phoneへの全面移行を進めている。
同社はコロナ禍前の2018年からZoomの利用を開始していた。その背景には、地方拠点とのコミュニケーション効率化があった。「例えば東北の営業所だと、仙台から秋田や青森まで出張するのに相当な時間がかかります。営業活動の一部をWeb会議に代替できないかと考えたんです」
この先見の明が、コロナ禍での迅速な対応を可能にした。「環境がある程度整っていたので、在宅勤務への移行もスムーズでした」と岡田氏は振り返る。
さらに同社は、通信インフラの刷新を一歩進め、Zoom Phoneの全社導入を決断した。「電話もZoomに移行しました。クラウドPBXと呼ばれるものです」。固定電話をなくし、PCやスマートフォンで内線通話ができる環境を整えたのだ。
「海外拠点も含めて、どこからでも内線通話が可能になりました。コミュニケーションが格段に円滑になりましたね」と岡田氏は評価する。この変革は、働き方の柔軟性を大きく向上させた。
さらに、同社はグループウェアもZoomに統合する計画だ。「メール、チャット、電話、Web会議、それからポータルみたいなものも含めて、来年早々にはもうZoomに切り替わります」と展望を語る。
これらの取り組みは、単なる業務効率化にとどまらない。「従業員のエンゲージメント向上も狙っています」。新しいポータルでは、FacebookのようなSNS的要素を取り入れ、社内のコミュニケーションを活性化させる計画だ。
創業127年の老舗企業が、最新のテクノロジーを駆使してDXを推進する。その姿は、日本企業のDXの一つのモデルケースと言えるだろう。
「経営層、経営トップが、このデジタルを導入して生産性を上げる、変革していこうということに関して、非常に前向きです」。岡田氏のこの言葉が、同社のDX成功の核心を表している。トップのコミットメントと現場の声の融合が、デジタル時代における日本企業の進むべき道を示しているのかもしれない。井村屋グループの挑戦は、伝統産業とデジタル革新の両立という、日本企業が直面する課題への一つの解答を提示している。
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