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「失われた25年」今こそ直視すべきその根源理由 必要なのは「働き方改革」ではない【新連載】ホワイトカラーの生産性はなぜ低いのか?(2/2 ページ)

日本企業は生産性が低い──日本経済が国際的な競争力を失っていることを語るとき、必ずと言っていいほどこう指摘される。この言葉、実は半分合っていて、半分間違っている。25年は「なぜ」失われたのか? 何がまずかったのか?

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トヨタ生産方式の本質は「人間性の尊重」

 トヨタの工長からたたき上げ、副社長にまでなった大野耐一氏が記した名著『トヨタ生産方式〜脱規模の経営をめざして』は、1978年に出版されて以来、トヨタの、さらには高度成長期における日本製造業の成功の原動力とされ、世界中の注目を集めてきた。

 「ジャスト・イン・タイム」と「自働化」を2本柱とするトヨタ生産方式を研究し、それをさらに発展させた「リーン生産方式」(ムリ・ムラ・ムダのない生産現場をつくる手法)も世界中で取り入れられている。

 トヨタ自動車の社長を14年務め、2023年に会長に就任した豊田章男氏も、トヨタの自社メディア「トヨタイムズ」にて以下のように述べている。

 トヨタ生産方式の2本柱は「ジャスト・イン・タイム」とニンベンのついた「自働化」。「自働化」は、まさに「人のために」。「人間尊重」ということ。〈中略〉

 もう一つの柱は「ジャスト・イン・タイム」。ジャスト・イン・タイムを詰めていくということを言い換えれば、リードタイムを究極に短くしていくとゼロになるということ。その仕事自体が必要なくなれば、一番のジャスト・イン・タイム。

 ただ、ゼロにはならない可能性があります。だけど、手待ちとか手戻りは省こうよと。ゼロになれば、その仕事はやめて、他の仕事をすればいい。そこまで続けるということ。

トヨタ春交渉2021 #3 『トヨタ生産方式』『カーボンニュートラル』『SDGs』一人ひとりに何ができるか」より引用

 大野耐一氏と豊田章男氏に共通するのは、「トヨタ生産方式の根幹は人間性の尊重である」という理念である。

 実のところ、トヨタ生産方式は決して労働者に優しい(甘い)仕組みではない。むしろ、非常に厳しい考え方である。ただでさえ、機械化された生産ラインでは“機械的”な、つまり非人間的な動き方を余儀なくされる。「標準作業手順」と「タクトタイム」が設定され、同じ作業を最小限の動作でこなすことによって、品質を維持しつつ作業時間の短縮を目指すことになる。

 その上常に「少人化」を目指し、余った人員が出れば「他の仕事をしてもらう」ことを是としている。そのために「多能工化」を普段から進めており、自分の得意な領域にとどまることを許されない。

 「他の仕事をしてもらう」といえば多少聞こえはよいが、目指しているのは生産性の向上、つまりは人員数の削減によるコストダウンである。そしてこれは、余った人員を解雇するのではなく「他の仕事」に回すことができる、つまりずっと成長を続けているトヨタだからこそできることでもある。

 社員の雇用を何より重視するトヨタが、一方でなぜここまで“優しくない”手法をとるのか?

 トヨタが特に日本国内においては雇用の維持を第一に考えていることは広く知られている。豊田氏は「国内生産300万台体制は石にかじりついてでも死守する」と繰り返し述べている。トヨタ本体のみならず、そこに連なる膨大なサプライヤー(トヨタでは「お取引先様」と呼ぶ)で働く人たちの雇用を守ることがトヨタの使命だと考えているのだ。

 ところが一方で、トヨタ生産方式は、大野耐一氏の時代から「少人化」を是としている。これはなぜだろうか? 「雇用の維持」と「少人化」はなぜ矛盾しないのか?

厳しいWin―Win

 人間には、付加価値の高い仕事をし、さらにその付加価値を上げていこうと努力する、という意欲と能力がある。ところが管理者の側が、それを発揮させず、付加価値の低い仕事をさせ続ければ、それはまさに人間性を尊重していないことになる。

 そして、社員に生産性の低い仕事をさせ続ければ、結局は企業としての生産性そして収益性も低いままとなり、企業は社員に十分な給料を払うことができなくなる。長期的には、雇用も維持できなくなる。これも人間性の尊重にもとる、とトヨタは考えているのだ。

 トヨタ生産方式とは、「少人化」という圧力を現場に常に与え続け、トヨタの競争力を上げ続けることが、結果として労働者の雇用を維持し、給料を上げることにもつながる、という、いわば「厳しいWin―Win」を目指す仕組みなのだ。

 そしてそれは同時に、「他の仕事」が常にある、つまり常に成長し続けていることが前提であるという意味で、経営者に対しても厳しい要求を突きつける。少人化させながら、「他の仕事」が用意できなければ、解雇するしかない。つまり従業員と経営者がともに「厳しいWin―Win」にコミットする、のがトヨタ生産方式の本質なのである。

 そして実際、トヨタ生産方式によって、トヨタは世界一の自動車メーカーになり、世界のあらゆる製造業および非製造業の手本となった。

 だが、日本のホワイトカラーの現場はどうなのだろうか?

 日本のホワイトカラー職場において「少人化」、つまり人数を減らすことで生産性を向上させようという意識が徹底されているという話をあなたは聞いたことがあるだろうか。経営者が「厳しいWin―Win」にコミットし、「生産性が上がったら他の仕事をしてもらう」という運用は?

 あなたの会社ではどうだろうか? 少人化によって、生産性を向上させつつ、勤労者の人間性をさらに高めようとしているだろうか?

 ブルーカラーもホワイトカラーも、同じひとつの会社の中で働いている同僚である。にもかかわらず、この違いはいったい何なのだろうか? 本連載ではこれを順に解き明かしていく。

著者情報:村田聡一郎

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SAPジャパン株式会社 コーポレート・トランスフォーメーション ディレクター

外資系IT企業、スタートアップを経て、2011年SAPジャパン入社。「ITではなく経営目線から」を信条とし、顧客の企業変革に伴走する。

海外事例にも精通し、講演・執筆など多数。著書に「ホワイトカラーの生産性はなぜ低いのか〜日本型BPR 2.0」「Why Digital Matters? 〜“なぜ”デジタルなのか」(プレジデント社)。SAP「COO養成塾」事務局長。白山工業株式会社 社外取締役。「合い積みネット」共同創業者。米国ライス大学にてMBA取得。

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