これが先進国? 東証社員インサイダー疑い、単なる“不祥事”では済まない深刻な理由:古田拓也「今さら聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)
日本取引所グループ(JPX)の社員が、インサイダー取引の疑いで強制捜査を受けたことが分かった。金融市場、ひいては日本経済にはどのような影響があるのだろうか。
インサイダーは利益が出なくても、損をしても逮捕される
日本の法律では、インサイダー取引は利益を得たかどうかにかかわらず、法に違反する行為とされている。重要なのが、株価が上がると思ってインサイダー取引を行い、結果的に損失を被った場合でも、インサイダー取引に該当すれば違法であることだ。
金融商品取引法の第166条の規定では、情報を知っている者が、それを利用して株式を売買する行為を禁止している。この条文は「取引の結果」が重要ではなく、「未公開情報を利用して取引を行った」という事実そのものが違法であることを示している。
加えて、未公開情報の漏洩自体も違法行為とされており、情報を基に取引を行った者だけでなく、その情報を他者に伝えた者も処罰の対象となる。取引しないからといって他人にインサイダー情報を提供したり、恩を売ったり、キックバックを受けたりるような行為も当然ながら禁止というわけだ。
インサイダー取引は、情報を知っている本人や知人・親族が売買するようなずさんな手口でない限り、発覚しないケースもある。このようなケースでは、インサイダー取引を行うことによるペナルティーが抑止力となるはずだが、懲役と罰金額は国際的に見ても少額であり、十分な効力を発揮していないと考えられる。
単なる“不祥事ニュース”ではない
市場の監督者である金融商品取引所や金融庁の立場に属する人間がインサイダー取引を行うというのは、先進国としてはあるまじき事案だ。それが連続して発生していることには非常に強い危機感を持たなければならない。
例えるならば「宝くじで胴元が当たりくじを抜き取って換金していた」ようなものだ。そうだとしたら、誰が今後宝くじを買うようになるのだろうか。市場監督者のインサイダー取引とは、それほどまでに重大な事案なのである。
インサイダー取引が横行する市場では、新規投資が減少し、企業の資金調達能力も低下する。具体的には、インサイダー取引が蔓(まん)延すると、一般の投資家はインサイダーによって高くなった株を買わされることになる。
本来は安く買えたはずの株を高く買わされるのであるから、インサイダー取引が蔓延すれば、「この国の株式市場はインサイダーの分だけ割高になっている」と見なされ、忌避されることになるからだ。
日本の市場は外国人投資家のシェアが大きく、日本の株式市場における外国人投資家の売買代金比率も6割を超えている。これは外国の資金が日本の企業価値や市場形成に大きな役割を果たしていることを意味する。
未公開の重要な情報を利用した取引は、金融市場の公平性を損ない、一般投資家に不利益をもたらすため、法律はその行為を厳格に規制する必要がある。
筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Xはこちら
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
農林中金が「外国債券を“今”損切りする」理由 1.5兆円の巨額赤字を抱えてまで、なぜ?
農林中央金庫は、2024年度中に含み損のある外国債券を約10兆円分、売却すると明らかにした。債券を満期まで保有すれば損失は回避できるのに、なぜ今売却するのか。
ブックオフ、まさかの「V字回復」 本はどんどん売れなくなっているのに、なぜ?
ブックオフは2000年代前半は積極出店によって大きな成長が続いたものの、10年代に入って以降はメルカリなどオンラインでのリユース事業が成長した影響を受け、業績は停滞していました。しかしながら、10年代の後半から、業績は再び成長を見せ始めています。古書を含む本はどんどん売れなくなっているのに、なぜ再成長しているのでしょうか。
孫正義氏の「人生の汚点」 WeWorkに100億ドル投資の「判断ミス」はなぜ起きたか
世界各地でシェアオフィスを提供するWeWork。ソフトバンクグループの孫正義氏は計100億ドルほどを投じたが、相次ぐ不祥事と無謀なビジネスモデルによって、同社の経営は風前のともしび状態だ。孫氏自身も「人生の汚点」と語る判断ミスはなぜ起きたのか。
“時代の寵児”から転落──ワークマンとスノーピークは、なぜ今になって絶不調なのか
日経平均株価が史上最高値の更新を目前に控える中、ここ数年で注目を浴びた企業の不調が目立つようになっている。数年前は絶好調だったワークマンとスノーピークが、不調に転じてしまったのはなぜなのか。

